国立極地研究所(極地研)は3月25日、アルジェリアで発見された安山岩質隕石「Erg Chech 002」(EC 002)が、年代既知の隕石や岩石の中で最も古い火山岩であり、約45億6500万年前、つまり太陽系が誕生した直後(誕生の約225万5000年後)にできたものであることを明らかにしたと発表した。
同成果は、極地研の山口亮准教授を含む日仏の国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」にオンライン掲載された。
約46億年前、原始惑星系円盤の中で塵が合体を繰り返し、やがて微惑星や原始惑星と呼ばれる惑星のもととなっていった。それらの一部は、太陽系の初期の時点では存在していた、アルミニウムの放射性同位体「26Al」などの短寿命核種の壊変による熱で内部が溶融。そして地表に溶岩が噴出することで、火山岩からなる地殻に覆われていったと考えられている。
この地殻を構成する岩石は、火山岩の中でもケイ素が比較的少なく、鉄やマグネシウムに富む「玄武岩」とされてきた。しかし近年の研究から、太陽系の原材料物質を溶融させると、従来考えられてきたものとは逆で、よりケイ素に富んだ「安山岩」ができるということが明らかになってきた。
安山岩は、日本で噴出する溶岩の多くを占めており、地球ではありふれた岩石だ。ところが、隕石としてはほとんど発見されておらず、これまでわずか数個見つかっているのみだった。そのため、微惑星や原始惑星を覆う地殻が玄武岩であったのか、安山岩であったのかについては、議論の分かれるところとなっていた。
そうした中、2020年5月にアルジェリア南部のErg Chech sand seaにおいて発見されたのが、緑色をした珍しい結晶を含むEC 002だ(EC 002は複数の隕石で構成される)。研究チームは同隕石を入手し、その組成や形成年代の分析を実施した。
まず化学組成の分析の結果、EC 002は玄武岩ではなく、比較的ケイ素に富んだ安山岩であることが判明。続いて、26Alを用いた放射年代の解析を用いて溶岩が固まった年代の特定が行われ、約45億6500万年前であることが明らかとなった。太陽系の誕生から約225万5000年後という、宇宙スケールで見ればまさに誕生直後といえる時期であることが判明したのである。
なお、太陽系の誕生は約45億年前もしくは約46億年前と、一般的にはおおよその数字をもって説明されている。今回の研究では、太陽系で最初の固体物質が形成された時点を「太陽系の誕生」と定義しており、より詳細な太陽系の誕生時期は約45億6725万5000年前とする説を採っている。
分析技術の進展により、近年は太陽系誕生以前の時代に生成された物質が隕石中から発見されている(太陽系の誕生には2つの超新星爆発が関与していたことを東工大などが解明している)。ただし火山岩に関していえば、EC 002が、これまでに年代が知られている隕石や岩石の中で最も古いものであることが今回の分析によって判明した形だ。
また、より詳細な年代データの解析も実施されたところ、溶岩の発生から噴出まで数十万年を要したことも明らかとなった。これは、安山岩の溶岩は粘性が高いため流動性が低く、地表への噴出まで非常に時間を要したためだと説明することができるという。
また、岩石組織や鉱物組成の解析の結果からは、次の2点のような変化(冷却)を経て溶岩が固化したことがわかった。
- 最初に、溶岩は1200℃から1000℃まで、1年に5℃くらいのペースでゆっくりと冷却された。これは厚さ数mの溶岩の冷却速度だという。
- 次に、温度が1000℃を下回ったくらいの時期から急冷(1日あたり0.1℃から1℃以上)が始まった。これは原始惑星に隕石が衝突したことで、溶岩が地表に放出され急冷されたためと考えられるという。
今回の成果から、研究チームはEC 002のような安山岩質溶岩が、太陽系の初期に微惑星や原始惑星の表面に普遍的に存在していた可能性が示されたとする。しかし、安山岩質の隕石は上述したように、これまで回収された例が少ない。そのうえ、EC 002の分光学的特徴を持つ小惑星(母天体)は現在のところ見つかっていないことから、現在の太陽系には安山岩は非常に少ないと考えられるという。その理由は、太陽系初期の惑星に存在した溶岩が衝突により破砕され、ほかの天体の原材料になったためであると考えられるとしている。
研究チームは、EC 002のような太陽系誕生直後の火山活動の状態を残す隕石を研究することで、今後、さらに太陽系の進化について理解が深まることが期待されるとした。またこのような希少な隕石は、太陽系初期のプロセスを解明するための鍵となることが多く、隕石探査によって隕石を広く採取し、多様性を確保することが太陽系進化の研究において非常に重要だとしている。