米国宇宙軍は2021年3月19日(日本時間)、米海洋大気庁(NOAA)の運用を終えた極軌道気象衛星「NOAA-17」が、軌道上でブレイクアップ(分解)したと発表した。

これにともない、16個のスペース・デブリ(宇宙ごみ)が発生したが、現時点では他の衛星やデブリと衝突する危険はないとしている。

また23日には、中国の極軌道気象衛星「雲海一号02」も分解し、21個のデブリが発生したと発表。原因や他の衛星との衝突の危険性などは分析中としている。

  • alt属性はこちら

    今回分解した、米海洋大気庁の極軌道気象衛星NOAA-17の想像図 (C) NOAA

NOAA-17のブレイクアップ(分解)

NOAA-17はNOAAが運用していた気象衛星で、ロッキード・マーティンが製造した。打ち上げ時の質量は約2tの中型の衛星である。2002年6月に打ち上げられ、打ち上げから3年後に定常運用を終了。他の衛星のバックアップとして引き続き運用されたのち、2013年4月に運用を終えていた。設計寿命は2年とされており、それを大きく上回る期間にわたって運用された。

米国宇宙軍の第18スペース・コントロール隊(18 SPCS、18th Space Control Squadron)によると、NOAA-17が分解したのは日本時間3月10日16時11分(協定世界時同日7時11分)とされる。

18 SPCSは世界各地に設置したレーダーや望遠鏡で、地球の周回軌道上にある大小さまざまな物体の監視を行っており、デブリの発生イベントや、また衛星同士やデブリとの衝突の危険性が予測された場合などには警報を出している。

現時点で、分解の原因は明らかになっていない。考えられる原因として、他の人工衛星やデブリとの衝突や、衛星内の燃料やバッテリーの爆発などが挙げられる。なお、デブリの発生イベントで使われる「ブレイクアップ(breakup)」とは、それらすべての可能性を含んだうえで、単に機体がばらばらに分解したことを表す言葉である。

この事象にともない、16個の破片が発生したことが確認されている。18 SPCSは19日の時点で、「NOAA-17の破片が他の衛星やデブリなどに衝突する危険性はない」としている。

ただ、NOAA-17が周回している高度約850km、軌道傾斜角98°の太陽同期軌道の付近は、他の地球観測衛星なども多数運用されている。また、大気もほとんどないため、デブリは数百年単位で軌道に留まり続け、すでに過去に発生したデブリが数多く存在する軌道でもある。そのため、将来的に他の衛星への衝突や、デブリ同士の衝突が起こる危険性もある。

  • alt属性はこちら

    米宇宙軍が運用している軌道上の物体を監視するシステムのひとつ、マーシャル諸島のクェゼリン環礁にあるレーダー施設、通称「スペース・フェンス」 (C) Lockheed Martin via U.S. Space Force

同型バスの衛星が分解した事例が多数

現時点で、NOAA-17が分解した原因は明らかになっていない。ただ、18 SPCSによると何かと衝突した形跡はみられないとし、バッテリーやタンクなどの破裂、爆発により、自ら分解した可能性が高い。

NOAA-17は運用終了時点まで、バス機器は正常に稼働していたこともあり、運用終了の2か月前から運用停止作業を行い、そして正常に終えたと報告されている。これは米国政府が定めた、衛星のデブリ化を防ぐための勧告「Orbital Debris Mitigation Standard Practices (ODMSP)」に従ったもので、バッテリーを回路から切り離したり、タンクに残った燃料や圧力を抜いたり、通信の送信機をオフにしたりといった作業が行われた。

一方で、NOAA-17が使っている「タイロスN(TIROS-N)」という衛星バスの一部には、設計上の欠陥によりバッテリーが破裂する危険があることがわかっており、それが原因となった可能性がある。

この欠陥とは、配線を留めているハーネスが外れ、配線がバッテリーに触れて短絡(ショート)を起こし、バッテリーが過充電状態となって破裂するというもので、過去にそれが原因とみられる故障や、今回のようなデブリを発生させるような分解事故も起こっている。

たとえば、同じバスを使っていた「NOAA-7」、「NOAA-8」でバッテリーの破裂が原因と見られる故障が起き、NOAA-7はのちに少数ながらデブリが発生したことも確認されている。さらに2015年1月25日には、NOAA-17の前号機にあたる「NOAA-16」も分解し、デブリが発生している。

また、米国防総省の気象衛星「DMSP」のうち、同じタイロスNバスを使っている「DMSP F11」が、2004年にやはりバッテリーの破裂が原因とみられる事故を起こし、デブリが発生している。さらに2015年には同シリーズの「DMSP F13」が、2016年にも「DMSP F12」が分解している。

18日には中国の気象衛星も分解

18 SPCSはまた23日、18日に中国の極軌道象衛星「雲海一号02」が分解し、21個のデブリが発生したことを確認したと発表した。

原因や他の衛星との衝突の危険性などは分析中としている。

雲海一号02は2019年9月に打ち上げられた衛星で、まだ現役だったとみられる。製造は中国国有の大手宇宙企業である上海航天技術研究院が担当した。打ち上げ時の質量は明らかにされていないが、打ち上げに使われた「長征二号丁」ロケットの能力から、2t以下の中型衛星とみられる。

2016年に打ち上げられた同型の前号機は順調に稼働しており、同じバスを使った他の衛星でも欠陥などは報告されていない。また、NOAA-17の分解との関連もないとみられている。

雲海一号02も、高度760km × 787km、軌道傾斜角98.5°の極軌道で運用されていた衛星であり、NOAA-17の場合と同じく、デブリは数百年単位で軌道に留まり続けることなどから、今後他の衛星や、デブリ同士で衝突が起こる危険性がある。

参考文献

18 SPCSさんはTwitterを使っています 「#18SPCS has confirmed the breakup of NOAA 17 (#27453, 2002-06-24) on March 10, 2021, at 0711 UTC. NOAA 17 was decommissioned in 2013. Tracking 16 associated pieces - no indication caused by collision. #spaceflightsafety #spacedebris @spacetrackorg」 / Twitter
18 SPCSさんはTwitterを使っています 「#18SPCS has confirmed the breakup of YUNHAI 1-02 (#44547, 2019-063A), which occurred on March 18, 2021, at 0741 UTC. Tracking 21 associated pieces - analysis is ongoing. #spaceflightsafety #spacedebris @spacetrackorg」 / Twitter
NOAA retires polar-orbiting satellite | National Oceanic and Atmospheric Administration
NOAA-M Continues Polar-Orbiting Satellite Series
Space-Track.Org