富士通は3月18日、電子カルテシステムの診療情報を始めとするリアルワールドデータを製薬企業における医薬品開発や治験、予防医療などに利活用するため、国立がん研究センターと包括的な共同研究契約を3月16日に締結し、共同研究を開始したと発表した。
今回の共同研究では、国立がん研究センター東病院が持つ電子カルテシステムの診療情報に加え、症例研究の情報や、同病院に通院する患者の健康情報を始めとするPHR(Personal Health Record)を匿名化したうえで、医薬品開発や予防医療などに利活用可能なデータとして製薬企業などに提供するプラットフォームを構築し、広範囲な情報と解析サービスによる新しい価値の創出を目指す。
また、治験においても電子カルテシステムの診療情報を安全性の高い統計データに加工して医療機関や製薬企業の治験業務を効率化する新たなモデルを確立するとともに、日本における治験データの世界標準への適応を推進し、国際共同治験への積極的な参画を支援していく方針。
具体的には、「リアルワールドデータの利活用の検証(リアルワールドデータシェア)」「新たな治験サービスモデルの確立および検証(治験業務のDX)」「医療データを安全・安心に利活用するためのプラットフォーム構築(共通基盤)」の3つのプロジェクトを、国立がん研究センター東病院において共同で実施する。
リアルワールドデータシェアでは、従来は利活用が難しかった電子カルテシステムの診療情報に加え、症例研究の情報や、地域患者の健康情報に関わる情報(PHR)を、製薬企業が取り扱いやすい形式に加工し、安全性及び質の高いデータとして提供することで、医薬品などの開発スピードアップや品質向上の可能性を検証する。また、診断や治療を支援する新たなAI(人工知能)技術の開発において、リアルワールドデータ利用の有効性を検証していく。
治験業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)では、現在は電子カルテシステムの診療情報を参照し人手でマッチングしている治験適合患者の抽出業務(治験患者リクルーティング)において、高速度・精度で適切な治験患者を自動抽出可能にする新たな治験サービスモデルを確立するため、電子カルテシステムの診療情報の解析に自然言語解析技術を適用する。これにより、治験に伴う院内業務の効率化を含めて治験のコストや期間の削減への有効性を検証する。
共通基盤に関しては、これら2つの検証を実施するため、電子カルテシステムにテキストデータで記録している診療情報をデータ利用可能な形式に変換し、安全・安心に医療データを活用できるプラットフォームを構築していく。同プラットフォームには、富士通研究所の技術や新たに開発するデータ抽出技術を使用するとのこと。
富士通は今後、生活者のウェルビーイング(生活者へ身体的・精神的・社会的に良好な状態を届けること)の実現に向けて、生活者の健康促進につながる医薬品などの開発スピードや品質向上、治験に要する期間やコストなどの課題を解決し、がんの個別化医療や予防医療などに寄与する多様なサービスを創出し、2021年度中の社会実装を目指すとしている。