東京大学、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)の3者は、ウイルス感染に対するヒトの免疫応答の中枢を担う物質「インターフェロン」の産生を抑制する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の遺伝子「ORF6」を発見したと発表した。
同成果は、東大 医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤佳准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Cell Reports」にオンライン掲載された。
SARS-CoV-2は2019年末にヒトへの感染が初めて報告され、それから1年以上が経つ。しかし未だに不明な点も多く、感染病態の原理についてはほとんどが明らかになっていないという。
その一方で世界中の研究者の努力により、わかってきたことももちろんある。その1つが、SARS-CoV-2は、インフルエンザやSARSなどほかの呼吸器感染症と比較して、インターフェロンの産生が顕著に抑制されていることだ。
この抑制されることが、急性呼吸促迫症候群(ARDS)やサイトカインストームなど、COVID-19に特徴的な現象であることから、これがCOVID-19の病態と関連する可能性があると考えられている。しかし、その原理の全容についてはほとんど明らかとなっていないという。
そうした中、佐藤准教授らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含むサルベコウイルス亜属に分類されるコロナウイルスに特異的な遺伝子として、「ORF6」を発見。そして培養細胞を用いた実験により、SARS-CoV-2のORF6には、SARSウイルスのORF6よりも強いインターフェロン抑制機能があることが確認された。
また、これまでの研究により、化合物の「イベルメクチン」や「セリネクソール」がCOVID-19の新規治療薬となる可能性や、ORF6の機能を阻害する薬剤となる可能性が示唆されていたが、これらの薬剤は、ORF6によるインターフェロン抑制機能には影響を与えないことも判明。
次に、約6万のSARS-CoV-2流行株のゲノム配列が解析された結果、約0.2%の流行株にはORF6遺伝子が欠損する変異が挿入されていることが明らかにされた。つまり、インターフェロン抑制機能が欠失している可能性が示唆されたのである。また英国ウェールズにおいて、ORF6欠損株が散発流行していたことも確認された。
これらの結果から、SARS-CoV-2のORF6には強いインターフェロン抑制機能があり、それがCOVID-19の病態発現において重要な役割を果たしている可能性が示唆されたとする。
佐藤准教授らの研究チームは、先行研究において、ORF3bというSARS-CoV-2のタンパク質にも、インターフェロン応答を抑制する機能があることを発見済みだ。今回のORF6に関する研究成果や、ほかの研究チームの研究成果から、SARS-CoV-2は複数の強力なインターフェロン抑制タンパク質をコードしていることが明らかになってきている。
今回の2つの研究成果から共通していえることは、流行拡大に伴って、SARS-CoV-2の遺伝子にはさまざまな変異が蓄積すること、そしてそれがCOVID-19の軽症化や病態増悪という感染病態の程度と関連する可能性があることが示唆されているという。
また今回の研究では、公共データベースを用いた解析から、ORF6遺伝子を欠損したウイルス配列が複数捕捉された。しかし、ウイルス配列情報と臨床症状の情報がほとんど紐づけられていないため、ORF6の欠損がCOVID-19の病態に与える(与えた)影響は不明のままだとする。
今後は、臨床情報が紐づいたウイルスの配列を取得する必要性、そしてSARS-CoV-2の感染病態と関連のある可能性がある変異(たとえば、「無症候・軽症と関連のある変異=弱毒化変異」や「重症化と関連のある変異=強毒化変異」)を捕捉し、それを実験的に検証する必要性があると考えているとしている。