ビットコインのマイニングマシン用にカスタマイズされたチップや最先端AIチップの設計で知られる、中国Bitmain Technologies(比特大陸科技)とその子会社のIC設計会社が台湾で孫会社2社を違法に設立して台湾の半導体人材を引き抜く活動を行ったとして台湾検察は3月9日、「台湾地区与大陸地区人民関係条例」違反で摘発を行ったとして、台湾の複数メディアが連日伝えている。
中国本土資本が台湾に子会社や支店などを設置する場合には事前に台湾経済部(日本の経済産業省に相当する中央官庁)に申請して投資審議委員会の審査を経て許可を受ける必要があるが、摘発された2社は、トップに台湾人を据える形で台湾資本を装い、台湾IC設計大手のMediaTek、ファウンドリ大手のTSMC、OSAT(IC実装・検査受託企業)大手ASE Technologiesなどから、高額な報酬で200人以上の技術者を引き抜いたという。また、台湾検察庁は、営業秘密法違反(これらの台湾企業から社外秘の技術情報を窃盗)の疑いもあるとして押収したPCや携帯電話を分析中だという。
深刻化する中国企業による台湾系技術者の引き抜き
台湾の半導体業界関係者によると、中国企業による台湾の半導体技術者を中心とした人材引き抜きは近年深刻化しているという。
中国Huawei傘下の半導体企業HiSiliconや、紫光集団傘下のUniSoCなどは、台湾経済部の許可を得たうえで新竹県竹北市のTai Yuen Hi-Tech Industrial Park(台元科技園区)に研究拠点を数年前から設けているが、主たる目的は半導体技術者のリクルートのようだと台湾業界関係者は見ている。
中国企業は、人材の引き抜きを目立たないように台湾人に担当させているともされる。台湾当局は、中国が台湾の半導体人材を誘致するために何倍もの高い給与や自社株無償提供などを提示していることに対し、ハイテク人材ならびに技術の保護が経済政策の重要な問題としてとらえ、法律や条例違反の行為についての罰則強化を図っている。
一方、日本でも中国や韓国の半導体をはじめとするハイテク企業の「研究所」が台湾同様にリクルート活動を行っているとされている。2021年2月、TSMCは日本に3D IC向けの素材研究所を設置することを明らかにしたが、これについて経済産業省は日本の半導体産業の復興につなげたいとして歓迎を表明する一方、日本にまだ残っている半導体人材のリクルート拠点になるのではないかと警戒する向きもある。ちなみに半導体業界でその存在感を高めるTSMCは、事業拡大に向け、2020年には8000人を超す技術者を採用したが、2021年も9000人以上の技術者を世界中から採用する計画だという。