パナソニックは3月5日、成長市場で創出したソリューションを成熟市場におけるニーズにマッチングさせていく「リバースイノベーション」を実現する「クロスボーダー事業開発」に関する説明会を開催した。

初めに、パナソニック イノベーション戦略室 クロスボーダー準備室 推進責任者 中村雄志氏は、イノベーション創出における同社の課題認識について、次のように語った。

「世の中の困りごとに対しビジネスとしてイノベーションが起こせておらず、特に、大きな組織がポテンシャルを生かし切れていない。成熟市場では、既存の仕組みが出来上がっており、新規事業の創出に苦労している」

  • パナソニック イノベーション戦略室 クロスボーダー準備室 推進責任者 中村雄志氏

一方で、インドではイノベーションセンターを設立してから、4年間で10件を事業化していることから、インドの成功例を成熟市場に持ち込むことで、イノベーションの循環を起こすことにしたという。

  • パナソニック イノベーションセンターで開発した事業の例

このようにインドでの成功事例を活用して新規事業を起こす組織として、昨年10月にイノベーション推進部門クロスボーダー準備室が設立された。同事業では、インドでの成功事例を日本でビジネスに結び付けた後、さらに技術、サービス、ビジネスモデルなどをブラッシュアップして、インドに戻すことまで視野に入れている。「クロスボーダー事業開発では、イノベーションを循環させる」と中村氏。

クロスボーダー事業開発の2020年度下期の戦略としては、事業領域はデジタルトランスフォーメーションと新型コロナにフォーカスし、トップダウンによる事業戦略視点とボトムアップによる個別案件の推進というアプローチをとる。

  • 2020年度下期事業活動の戦略

中村氏は組織ができて以来、関わった商談は100件を超えており、顧客とビジネスを具眼化し、事業部門と伴走しながら事業開発に取り組んできたと語った。そして、現場に実装した案件は21件となっている。

例えば、位置情報サービス「Seekit」は3件の実証実験が進んでいるという。1件は、Jリーグ水戸との共創によるもので、今年2月に子供と高齢者の見守りの実証実験が始まった。残り2件は今年4月に開始予定だ。

  • 位置情報サービス「Seekit」の事業化の状況

中村氏は、クロスボーダー事業開発におけるポイントとして、「組織の強みを生かすこと」を挙げた。つまり、パナソニックとしての実績やノウハウをすべて捨ててゼロから違うことをやるわけではないということだ。メーカーとしての探索を基本姿勢として、パナソニックが持っている技術思考やデザイン思考といったDNAや強みを生かして、問題を解決し、ソリューションを生み出していくという。

加えて、価値提供を継続するため、ピンポイントの社会課題を解決するのではなく、地域のエコシステムに貢献することを狙っている。前述した水戸での実証実験は、地域に根付いた見守りサービスの実現を目指している。

そのほか、中村氏は事業開発のプロセスのデジタル化に注力していることを紹介した。「オンラインセミナーの無人化、自動化」「B2B特化型のインバウンドマーケティングプラットフォーム」「B2B特化型の顧客体験モニタリングシステム」など、事業開発と組織開発にソフトウェア技術を応用している。

チームビルディングにあたって、チーム活性化のためのエンゲージメント計測ソフトウェアを運用するなどしているが、予期しなかった副次作用として、クロスボーダー事業開発のチームのエンゲージメントは大手企業平均の約1.5倍に達していることがわかったそうだ。新たな事業の取り組みが、働く社員のモチベーションにもよい影響を及ぼしているようだ。