新潟大学と新潟県阿賀野市は3月2日、同市の中学生を対象とした共同研究において、肥満に該当する中学生では、「心血管代謝異常リスク」、大人でいうところの生活習慣病傾向を有する可能性が、最大で3倍近く高くなることを明らかにしたと発表した。
同成果は、新潟大大学院 医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科の曽根博仁教授、同・研究科健康寿命延伸・生活習慣病予防治療医学講座(阿賀野市寄附講座)の藤原和哉特任准教授、そして阿賀野市の共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学の国際専門誌「Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition」に掲載された。
青少年期の代謝異常(血圧、血中脂質、血糖などの高値)は、成人まで持続することが多く、将来の動脈硬化を促進させることから、早期発見と生活習慣改善による是正が望ましいという。
しかしこの世代は、血液検査や血圧測定を含む健康診断を受ける機会に乏しいため、未発見のまま放置されているのが現状だ。さらに日本人を含む東アジア人の成人では、ほかの人種より低い肥満度(BMI≧23kg/m2)でも2型糖尿病や循環器疾患を発症しやすいことが知られている。しかし青少年においては、肥満に至らない程度も含む体重増加と代謝異常との関連を調べた研究は少なく、その関連は十分解明されていないという。
こうした背景のもと、新潟大医学部と阿賀野市が、市民の健康寿命延伸を目的とした共同研究プロジェクトの一環として実施しているのが、中学生の生活習慣病予防事業だ。中学2年生に対し、血液検査や血圧測定を含む健康診断や生活習慣実態調査が実施されてきた。
今回は、阿賀野市の中学生生活習慣病予防健康事業において健診を受け、研究に同意した13・14歳の2241名(男子1180名、女子1061名)を対象に、体格指標と代謝指標との関連の検討が行われた。
体格分類は、まず対象者の身長・体重からBMIを算出し(BMIの算出方法:体重(kg)を身長(m)で2回割る)、国際肥満タスクフォースが提唱する性別・月齢別カットオフ値を用いて、痩せ・標準体重・軽度過体重・過体重・肥満の5カテゴリとされた。心血管代謝異常リスクは、血圧・非HDLコレステロール(non-HDL-C:動脈効果促進星の血中脂質成分)、HbA1c(ヘモグロビンA1c:糖尿病の指標に用いられる平均血糖レベル)の3つの指標を合成して作成したスコアが、全対象者の中で1SD(標準偏差)以上のものと定義された。
体格分類と健診のそれぞれの結果との関連をロジスティック回帰分析で検討した結果、標準体重の中学生に比べ、過体重に該当する中学生で約2.4倍、肥満に該当する中学生で約2.9倍の心血管代謝異常リスクを持つ可能性が高いことが判明したのである。
さらに、個々の代謝指標と体格分類との関連が検討されたところ、軽度過体重以上の中学生では、標準体重の中学生と比べて、血圧高値である可能性が統計的に有意となる約1.4~約2.4倍高くなっていることが確認された。
また、動脈効果促進性の血中脂質である「non-HDL-C」についての同様の検討が行われ、標準体重の中学生と比べて過体重の中学生で約1.6倍、肥満者で約3.1倍多くnon-HDL-C高値である可能性が高くなっていた。
一方、糖代謝を反映するHbA1cは、いずれの体格とも統計的に有意な関連は見られなかったとしている。
これらに加え、男子と女子に分けて検討も実施され、その結果、女子では標準体重の中学生に比べて、軽度過体重の中学生で血圧高値である可能性が約1.6倍有意に高く、さらに過体重で約1.9倍、肥満で約2.7倍と、体格指数が増加するごとにオッズ比も増加することが確認された。
また男子では、痩せている中学生は標準体重の中学生と比べて血管代謝異常リスクの可能性は約80%低下していることがわかったが、女子では痩せていることと心血管代謝異常リスクに関連は見られなかったという。
今回の研究結果から、過体重や肥満の中学生では、標準体重の中学生に比べ、高心血管代謝異常リスクに該当する可能性が2倍以上になることが判明した。さらに女子では、肥満に達しない軽度の体重増加であっても、標準体重の中学生と比べて血圧高値の可能性が高まることも確かめられたのである、
これらの結果から、過体重や肥満に該当する中学生は、心血管代謝異常リスクが高いことから、教育現場においても、体重増加につながる生活習慣(過食、運動不足など)是正のための指導を行っていく必要があるとしている。