半導体市場調査会社のTrendForceは、自動運転技術の進展や5Gインフラストラクチャの構築などを背景に、自動車に搭載されるメモリ容量は今後急速に増加するという予測を公開した。
例えば、テスラのモデルSおよびXシリーズはNVIDIAのCPUおよびGPUを採用している関係上、高い帯域幅を提供するGDDR5 DRAMを採用してきた。しかもその容量は少なくとも8GBであり、モデル3では14GBへと増量されている。そして次世代車両では20GBへと搭載容量が引き上げられる見込みで、このメモリ容量は1台あたりのPCやスマートフォン(スマホ)で使用される容量よりもはるかに多い。こうした動きを踏まえ、TrendForceでは自動車に搭載されるDRAM容量について、少なくとも今後3年間の平均成長率は30%超で推移していくと見ている。
TrendForceによると、世界で流通している既存の車両モデルに基づく2021年における自動車1台当たりに搭載されているDRAM容量の平均は約4GBとのことで、これが年々増加していくことが期待されるとする。ただし、自動車の販売台数はノートPCやスマホに比べて少なく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生する前、2019年の世界の自動車販売台数は約9400万台程度。また、2021年の自動車1台当たりの容量が約4GBとしても、サーバで使用されるメモリ容量はそれ以上であることから、DRAMの消費先をアプリケーション別で見た場合、自動車の割合は全体の2%(2019年をベースに計算した値)にも満たないのが現状だともしている。
参入障壁は高いが、市場は奪い合いの状況に
車載DRAM市場は、ほかのアプリケーション分野と比べても長期にわたる耐久性と信頼性に対する基準が高く、DRAMサプライヤもそのニーズに応える必要がある。少なくとも供給されるメモリも7~10年の製品ライフサイクルを保証することが求められ、その間のサポートなども行っていくことが必要とされるためである。
また、極寒の地であっても、灼熱の地であっても故障せずに動作する広い動作温度範囲に対する保証も必要となる。そのため、車載DRAMの価格はトランジスタ密度やほかの仕様が同じほかの分野向けDRAMの価格と比べても少なくとも30%ほど高くなっており、さらにさまざまな安全基準などを満たしたDRAMであれば、その価格はほかの分野のDRAMと比べ数倍高くなる可能性もあるとするといった特徴があり、製造コストなどは高くつくが、その分、高い利益率と潜在的な市場成長性からDRAMサプライヤ各社は積極的にその市場シェアを奪おうと躍起になっている。
その中で、市場シェア約50%を有するのがMicron Technologyだという。同社は米国企業であり、韓国や台湾といった強い自動車メーカーを自国に有さない競合他社と比べて地理的な利点があるとされる。また、欧州ならびに米国に拠点を構えるティア1部品サプライヤとの協力関係も競合他社に比べて長い歴史も強みとなっている。 さらにそのラインアップもDDR2などといった旧来品からLPDDR5、そしてGDDR6に至るまで幅広く取り揃えているほか、NAND、NOR、MCPなどDRAM以外のメモリもそろえて提供することで、強い存在感を発揮することに成功しているとTrendForceでは分析している。
DRAM大手3社以外の変わったところでは、台湾のNanya TechnologyとWinbondも車載DRAMを提供している。特にNanyaの場合、同社の総売上高の60%以上を占める特殊DRAMの中でも約15%の売上高を車載DRAMが占めるなど、注力分野となっている。一方のWinbondも10年以上にわたって車載DRAMの提供を行ってきており、NORやSLC NAND、MCPなどほかのメモリと組み合わせることで、競争優位の確保を図ってきており、現在、自動車向け半導体の同社のメモリ売り上げに占める比率は10%以上にまで成長してきているという。