酒量が日々増えてしまうのは、脳内で幸福感ややる気を高める神経伝達物質「ドーパミン」の受容体が増えるためであることをハエの実験で解明したと、東北大学などの研究グループが発表した。ヒトのアルコール依存症も同じと考えられ、将来的に対策につながるか注目される。

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    D1ドーパミン受容体を可視化したハエの脳。自由に飲酒させたもの(右)は、させなかったものに比べ受容体が多い(黄色や赤の部分)ことが分かる(東北大学、国立遺伝学研究所提供)

飲酒にはドーパミンを活発にする効果がある。習慣化すると、やがて酒量を自分の意思で抑制できなくなり、アルコール依存症になるリスクが高まる。ただ、酒量が増えてしまう脳内の仕組みはよく分かっていなかった。

そこで研究グループは、ショウジョウバエ計数十匹を使い実験した。昆虫の中で例外的にアルコールを好むショウジョウバエは、酒量が日々増える依存症の実験動物として使われることがある。容器内に放ち、砂糖水に溶かした度数15%のアルコールを、ガラス管の先から自由に飲めるようにした。

その結果、1回の酒量は変わらないものの、1日目に平均30回ほどだった回数が、4日目には50回程度に増加。ヒトの依存症に似た変化を示した。体重50キロのヒトに換算すると、日本酒やワインを1日目に35リットル、4日目に50リットルほど飲んだことに相当するという。現実なら確実に死に至る量だ。

脳を観察したところ、アルコールを自由に飲んだハエは、比較のため飲まされなかったハエに比べ「D1型ドーパミン」の受容体が増えていた。遺伝子を操作してドーパミンの分泌を抑えたり、受容体の遺伝子を破壊したりしたハエでは、酒量は増えなかった。また、遺伝子操作でD1ドーパミン受容体を増やすと、通常のハエに比べ酒量が過剰になった。

D1受容体は餌の匂いの記憶など、脳の高次機能に重要な役割を果たす。一連の実験を通じ、これが飲酒で増えると、さらに酒量が増えてしまうことが分かった。D1受容体が増えて刺激に対する感度が高まり、過敏に反応するようになったためと考えられる。

ヒトの場合、D1受容体と逆の働きをする「D2ドーパミン受容体」が減って効果が弱まることで、結果的にD1受容体の働きが強まることが、別のグループの研究により示されているという。ハエではD1受容体が増え、D2受容体は変わらない結果となったが、D1受容体の刺激が強調される点が共通している。

研究グループの東北大学大学院生命科学研究科の市之瀬敏晴助教(行動遺伝学)は「何度も飲酒することでドーパミン受容体が増えることや、それによる行動の変化が分かり、因果関係を証明できた。(遺伝子操作するような)実験は困難だが、ヒトにも当てはまるのではないか」と述べている。

ヒトは哺乳類の中で例外的にアルコールを好むという。自然界では主に発酵した果実にアルコールが含まれていることから、果実を食べる生活とともに身についたと考えられている。

研究グループは東北大学、国立遺伝学研究所などで構成。成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に2月9日付で掲載され、東北大学が18日に発表した。

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