宇宙航空研究開発機構(JAXA)、NEC、NECスペーステクノロジーの3者は2月19日、2020年11月29日に打ち上げられた「光データ中継衛星」に搭載した「静止衛星用GPS受信機」を活用して、GPS衛星からのGPS信号を利用して衛星の時刻・位置・速度を高精度に決定する「GPS航法」を静止衛星において実現したと発表した。
GPSといえば、カーナビやスマートフォンの地図アプリなど、今や誰もがその恩恵に授かっているといっていい、宇宙の民生利用の代表的な技術だ。こうした、人工衛星を利用した地球上での測位システムはGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)と呼ばれ、米国で運用されているGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)はその一種である。
GPS航法とは、GPS衛星から送信されているGPS信号を利用して、GPS受信機と複数のGPS衛星(正確な3次元座標を求めるには4機以上)の間の距離と、受信機の時刻のずれを測定することで、受信機の時刻・位置・速度を高精度に決定する技術だ。GPSはカーナビやスマートフォン用の地図アプリなど、クルマもスマートフォンも受信機を搭載し、現在地を測位することでGPS航法を実現しているのである。
原理的に、GPSは地表で利用されることを前提としたシステムだが、地球から遠く離れた宇宙空間でも、信号の受信さえできればGPS航法は可能だ。GPS衛星は高度約2万kmの軌道を周回するが、それよりも低軌道を周回する衛星は地球の影に隠れてしまわない限りは信号を受信しやすいため、GPS航法がすでに利用されている。低軌道衛星では、高精度な軌道決定、衛星搭載システムの時刻基準の高精度化、自律的な軌道制御による運用効率化などに広く用いられており、衛星の能力向上に貢献しているのである。
その一方で、GPS信号は地上に向けて送信されているため、GPS衛星よりも高い約3万6000kmの軌道を周回する気象衛星などの静止衛星には、当然ながら届かない。ただし、GPS衛星に対する静止衛星の位置次第で受信することも、地球を間に挟んで反対側に近い位置にいるときであれば可能とされている。
この場合、原理的に受信することは可能だが、もちろん問題もある。両衛星の距離だ。単純計算で約2万km+約3万6000km=約5万6000kmとなり(地球を挟んで完全に180度反対の位置ではないので実際にはもっと短い)、地上で受信するときと比べて3倍近くなってしまう。つまり、GPS信号が大きく減衰してしまうのだ。この微弱な信号をとらえることは難しいため、これまで静止衛星でのGPS航法の利用は普及していなかったのである。
そこでJAXAとNECは今回、微弱なGPS信号の捕捉・追尾・メッセージ復号を可能とする静止衛星用GPS受信機を共同開発。同受信機を光データ中継衛星に搭載し、静止衛星軌道上において、4機以上のGPS衛星からGPS信号を受信して安定したGPS航法を継続できることに成功したのである。これにより、自律的な航法および軌道制御による運用効率化、衛星画像の幾何補正精度向上、衛星搭載システムの時刻基準の高精度化など、静止衛星の能力の大幅な向上に寄与することができるという。
これらの成果を踏まえ、静止衛星用GPS受信機の開発・製造・販売をNECスペースが担当。2021年春より国内外に販売を開始する予定だ。GPS航法を利用することの普及を通じて、静止衛星の能力向上に貢献していくとしている。
またJAXAとNECは静止衛星用GPS受信機のさらなる改良を継続しており、JAXAで現在開発中の技術試験衛星9号機(2023年度打ち上げ予定)では、改良した「静止衛星用GPS受信機」を用いた自律的な軌道制御を実施する計画だ。