ルネサス エレクトロニクスは2月17日、同社が先だって発表したハイエンド車載SoC「R-Car V3U」に搭載した車載向けプロセッサ技術の詳細について、2月13日~22日にかけてオンラインで開催されている「国際固体素子回路会議(ISSCC 2021:International Solid-State Circuits Conference 2021)」にて発表したことを明らかにした。

今回発表されたのは、60.4TOPSのディープラーニング性能と13.8TOPS/Wの電力効率を両立したCNNハードウェアアクセラレータコアを開発したことと、偶発的に発生するハードウェア故障を高速に検出、制御する高度なセーフティメカニズムを開発したことの2点。1つ目のCNNハードウェアアクセラレータは、空冷でのシステム冷却が可能な約25Wの消費電力を高い性能を維持しつつ実現するべく開発されたもの。具体的な実現手法としては、1コアあたり1万3824個の積和演算器を搭載したアクセラレータを3つ実装することで、目標値を達成したという。

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    R-Car V3Uの仕様概要 (資料提供:ルネサス)

このCNNアクセラレータはR-Car V3Uでは主にカメラが取得した画像からの物体認識処理と、周辺環境モデル(環境モデリング)と呼ばれる各センサが得たデータを組み合わせて車両周辺の環境を内部で実現する処理の2つ。物体認識処理はASIL-B相当、環境モデリングはASIL-D相当だが、通常使用の場合、その処理のほとんどが物体認識処理であることから、すべてのCNNコアにASIL-Dを達成するような機構を組み込むと効率が悪くなり、電力も多く消費することになるので、環境モデリングの処理のみ、ロックステップ処理を行える仕組み「Hardware Supported Software Lockstep」を採用することで、効率と処理能力の両立を実現したとする。

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    今回開発されたCNNハードウェアアクセラレータの概要 (資料提供:ルネサス)

Hardware Supported Software Lockstepは、2つのCNNアクセラレータコアと専用のロックステップDMAコントローラ(DMAC)を組み合わせることで、ロックステップDMACがDRAMからデータを読み込み、2つのCNNアクセラレータにデータを格納して同じ処理を2コアで実行。実行結果を専用メモリに格納して比較を行うほか、ロックステップDMACにも比較する機能があり、その比較結果が不一致の場合、故障と判定し、故障に応じた処理に遷移するという。ちなみに外部メモリには1コアのみ処理結果を格納することで、帯域を増やさない工夫も施されているという。

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  • ASIL-Dが求められる場合のみロックステップ処理をすることで、低消費電力と性能のバランスの両立を図ることに成功したという (資料提供:ルネサス)

一方のセーフティメカニズムは、異なる安全性レベルのソフトウェアが混在する環境において、低レベルタスクから高レベルタスクへの従属故障を防ぐことを可能とするもの。具体的には、データがハードウェアやメモリの間を動く際に介するインタコネクトにデータが送付された際にソースモジュールから独自のソースIDを添付。このIDが転送先で許可されたものかどうかをチェックすることで、故障などで不正な想定していないアクセス(ID)が送られてきても、その受け取りを遮断することを可能としたという。同社ではソフトウェアタスク間の無干渉(FFI)支援機構と読んでおり、R-Car V3Uでは大きく5つの機能ブロックに分けられるが、その間をつなぐすべてのインタコネクトにこの機構を搭載することで、SoCで動作するすべてのタスク間のFFIが可能になり、物体認知からレーダやLiDARとのセンサフュージョン、走行計画の立案から制御指示まで、1チップで対応可能なASIL-D向けSoCを実現したとしている。

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  • ソフトウェアタスク間の無干渉(FFI)支援機構の概要と、R-Car V3Uの機能ブロック図 (資料提供:ルネサス)

なお、R-Car V3UはTSMCの12nmプロセスを採用して製造される。半導体は電力と高性能化をプロセスの微細化で実現してきた。そのため、R-Car V3Uのプロセスを7nmにシュリンクすれば、より多くのトランジスタが搭載でき、CNNのコア数を増やしつつ、消費電力を抑えられるかというと、12nm→7nmではそこまでドラスティックに電力を落とすことができないとのことで、アーキテクチャとしての工夫も必要になると同社では説明しており、今後登場してくるであろう次世代R-Carでは、また新たな工夫などを取り入れ、さらなる高性能化と低消費電力の両立を図っていくとしている。