津波の浸水を瞬時に高解像度で予測する人工知能(AI)の開発に、性能世界一のスーパーコンピューター「富岳」を活用して成功した、と東北大学災害科学国際研究所などが発表した。一方、理化学研究所は富岳の本格運用を前倒しし、3月9日に開始すると発表した。
AIを開発したのは同研究所のほか東京大学地震研究所、富士通研究所で、2月16日に発表した。津波のシミュレーションを富岳で2万パターン行い、それぞれの沖合での津波の波形と沿岸の浸水の関係を基にAIを構築した。地震発生時にこのモデルに沖合の津波の観測情報を入力すれば、津波の到達前に浸水状況を3メートルの解像度で予測可能。建物や道路の影響による津波の高まりも地域ごとに予測でき、適切な避難に役立つという。富岳の本格運用に先立ち、計算能力の一部を使う試験利用で開発した。
AIの事前学習により地震発生後の大規模計算が不要で、一般的なパソコンでも利用可能。予測がごく簡単になるという。これまでは蓄積しておいたシミュレーションのデータから、実際の地震や津波のデータと最も似たものを選ぶ方法や、沖合での観測と合うように予測を徐々に調整する方法があった。いずれも発生後にスパコンによる大規模計算などが必要で、システム構築や運用が難しかった。
富岳の本格運用開始は来年度の予定だったが、理研は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策への貢献などを急ぐため、前倒しして3月9日とした。萩生田光一文部科学相は2月9日の会見で「いわば一足早い山開きを迎える。ポストコロナの時代を切り開くため、フルスペックの富岳が国民共有の財産として健康医療、防災・減災、エネルギー、ものづくりなどさまざまな分野で利用され、世界を先導する成果を創出できるように取り組みたい」と述べた。
また富岳を利用する研究を公募していた高度情報科学技術研究機構(RIST)は16日、74課題を採択したと発表した。来年度分だが前倒しを受け、準備が整い次第利用できるという。 富岳は2019年まで運用した「京」の後継機。理研と富士通が共同開発し、理研計算科学研究センター(神戸市)に設置。世界のスパコンのランキングでは昨年6月と11月に計算速度など4つの指標で大差の1位となった。昨年4月からの試験利用ではコロナ対策で、飛沫拡散のシミュレーションや有望な治療薬候補の探索などでも、既に成果を挙げている。
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