遺伝子の発現を高めるようにしてイネの収量を30%以上増加させることに成功した、と名古屋大学などの研究グループが発表した。イネの根が栄養分を吸収する際に働くタンパク質の量を増やすことで光合成や栄養分吸収を活発にできた結果という。研究グループはこの方法を実用化できれば肥料などを削減することにより環境問題にも貢献できるとしている。
植物は根から窒素、リン、カリウムなどの栄養分を吸収し、葉の気孔から二酸化炭素(CO₂)を取り込んで光合成を行うことで成長する。
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の木下俊則教授や中国・南京農業大学資源環境科学学院の研究者らのグループは、植物の葉がCO₂を取り込んだり、根が窒素やリンなどを吸収したりする際に「細胞膜プロトンポンプ」と呼ばれるタンパク質が重要な働きをすることを既に明らかにしていた。今回この細胞膜プロトンポンプに着目。遺伝子組み換え技術を利用し、このタンパク質の遺伝子の発現を高めてタンパク質量が多いイネを作った。
すると、根の窒素養分の吸収が20%以上、光合成活性が25%以上高まっていた。実験室内の水耕栽培ではイネの収量(乾燥重量)が18~33%増加していた。この研究成果を受けて2年にわたり4カ所の野外試験用水田で収量評価試験を行ったところ、収量が30%以上増加することを確認した。また細胞膜プロトンポンプの遺伝子発現を高めたイネは、肥料の窒素量を半減しても通常の窒素量の野生株より収量が多いことも分かったという。
研究グループは「世界的な問題になっている急速な人口増加による食糧危機や耕作地から窒素が流出することによる環境汚染(地下水、河川汚染)の解決に貢献すると期待される」としている。また今回は遺伝子組み換え技術による成果だが、今後はゲノム編集技術を使った高収穫量イネの開発も目指すという。
研究は科学技術振興機構(JST)の先端的低炭素化技術開発(ALCA)などの一環として進められ、研究論文は2日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子版に掲載された。
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