米国国立科学財団 国立光赤外線天文学研究所、米ハワイ大学天文学研究所は現地時間2月10日、国立天文台が運用するすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)を用いて、約132天文単位という遠距離に、太陽系の天体としては最遠となる新天体、通称「ファーファーアウト(Farfarout)」を発見したと発表した。

同成果は、米・カーネギー研究所のスコット・S・シェパード博士、ハワイ大学のデイビッド・トーレン博士、米・北アリゾナ大学のチャド・トルヒーリョ博士らの共同研究チームによるもの。

ファーファーアウトの発見そのものは、実は2018年までに遡る。2018年1月15日と翌16日に撮影されて移動しているところから、太陽系内の新天体と判明した。ただし、このときは正確な軌道を確定できるほどの観測ができなかったため、その後、数年かけて追観測が実施された。

追観測で使用されたのは、すばる望遠鏡と同じマウナケア山頂の大型望遠鏡群のひとつであるジェミニ北望遠鏡と、チリのラス・カンパナス天文台に設置されているマゼラン望遠鏡だ。このふたつの望遠鏡を用いて、共同研究チームは数年間にわたる追観測を実施し、今回軌道を割り出すことに成功したのである。

  • ファーファーアウト

    すばる望遠鏡のHSCを用いて2018年1月15日に撮影されたファーファーアウトの画像 (c) Scott S. Sheppard (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

なおこの共同研究チームは、太陽系の最遠天体を探し出すのを得意としており、2018年には、今回のファーファーアウトが発見されるまでは最遠だった「2018VG18」、通称「ファーアウト(Farout)」も発見している。ファーアウトは太陽から約120天文単位の距離にあり、今回のファーファーアウトはさらに12天文単位(約18億km)、記録を更新したことになる。約132天文単位は、太陽~地球間の130倍以上、太陽~冥王星間の平均距離と比較しても3倍以上遠い。

太陽系の外縁にある主だった天体までの距離を紹介すると、まず現時点で最遠の惑星である海王星は、太陽からの距離がおよそ30天文単位(約45億km)だ。

  • ファーファーアウト

    ファーファーアウトのイメージイラストと、太陽系内の主な天体の距離を示すグラフ。緑は惑星、黄色は準惑星、橙は準惑星候補、赤はファーファーアウト (c) NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

かつての第9惑星、現在は準惑星である冥王星は楕円軌道を取っているため、最も太陽に近づく近日点は海王星よりも内側になるが、逆に最も離れる遠日点は50天文単位弱(約75億km)となる。冥王星と同じ準惑星の中で最も遠方に位置するエリスも楕円軌道を描いており、遠日点は100天文単位近くにもある。しかしファーファーアウトは、これらよりもさらに遠方に位置しており、軌道を1周するのに1000年ぐらいかかるだろうと見積もられている(エリスが約550年)。

  • ファーファーアウト

    ファーファーアウトのイメージイラストと、横軸に太陽からの距離(AU:天文単位)を取った、惑星や準惑星、ファーアウトやファーファーアウトの距離。40天文単位手前に冥王星(Pluto)があり(太陽からの平均距離でプロット)、ファーファーアウトに比べたらとても太陽に近く見えてしまう (c)Roberto Molar Candanosa, Scott S. Sheppard from Carnegie Institution for Science, and Brooks Bays from University of Hawaiʻi (出所:ハワイ大学Webサイト)

ちなみにファーファーアウトは極端な細長い楕円軌道を描いている。そのため、最も太陽に近づく近日点はおよそ27天文単位で、冥王星以上に海王星軌道の内側にまで入り込む。その逆の遠日点は、なんと約175天文単位(約262億5000万km)だ。現在の位置の約132天文単位は遠日点の近くでも何でもなく、そこからさらに太陽~冥王星の平均距離を足した程度に遠方まで行くのだ。約175天文単位は、秒速約30万kmで進む光の速度でも1日以上かかる距離である。まっすぐNASAの惑星探査機ボイジャー1号が向かっていたとしても、現在地球からの距離は約227億7421万km強なので、まだ届かない。約175天文単位とは、それほど遠いのだ。

ファーファーアウトの軌道はとても細長い楕円を描いているわけだが、その原因として考えられるのが、過去に起こった海王星との重力相互作用と推測されている。海王星に近づきすぎたために、その重力に振り回されて太陽系の外側に弾き飛ばされた可能性があるという。ちなみに軌道が交差しているため、今後もファーファーアウトと海王星が接近し、大きな重力相互作用をしてファーファーアウトの軌道がさらに変わる可能性もあるという。

余談だが、海王星最大の衛星トリトンは、海王星の自転に逆行する向きで公転していることから、海王星に捕まった太陽系外縁天体と考えられている。ただし、単独で海王星付近まで移動してきて、たまたまそこで逆行で捕まるというのは速度的に難しいとされており(天体は逆噴射して減速しないため)、実は二重天体の片割れだったという仮説がある。冥王星とカロンのように、共通重心の周囲を回る二重天体として海王星付近までやって来て、回転の向きや位置などの関係で海王星に対して相対的な速度が落ちた瞬間にトリトンだけが捕捉。その反動で相方の天体は、遠く弾き飛ばされたというのだ。もしかしたらファーファーアウトがその相方だった、という可能性はいくら何でも考えすぎだろうか。

また太陽系外縁の天体といえば、海王星の遥か外側を公転すると推測されている未知の第9惑星、通称「プラネット・ナイン」の存在も気になるところ。海王星の外側に惑星サイズの天体がないと説明がつかない偏った軌道を取っている外縁天体が複数見つかっており、それがプラネット・ナインが存在する証拠と推察されている。

そのため、27~175天文単位を行き交うファーファーアウトの軌道も、プラネット・ナインの重力によって影響を受けている可能性があると考えられたのである。しかし、海王星の重力による影響の方がとても強いため、ファーファーアウトの軌道からはプラネット・ナインの影響を調べることはできないのだという。

またそのファーファーアウトのサイズは、氷の豊富な領域にある天体のため、それを多く含むという仮定の下、現在の明るさと距離から、直径約400kmと見積もられた。準惑星とした場合、下限に近いとしている。

カーネギー研究所のシェパード博士は、今回のファーファーアウトの発見は人類の遠方を探査する能力が向上していることを示すとする。すばる望遠鏡に取り付けられたHSCのような巨大デジタルカメラの高性能化により、ファーファーアウトのような遠方の天体も効率的に見つけられるようになったという。ファーファーアウトは準惑星クラスのサイズがあるとしても、あまりにも遠方にあるために非常に暗く、現在の望遠鏡の高い性能がなければ検出は不可能だ。またファーファーアウトは、太陽系の果てに存在する天体の中では、氷山の一角に過ぎないとしており、今後、さらに遠方記録が伸びていく可能性があるという。

ファーファーアウトは、国際天文学連合小惑星センターによって「2018AG37」という仮符号が与えられた。正式な名称は、今後さらに数年にわたって観測が続けられ、より正確な軌道が判明したら与えられることになる。