大阪大学(阪大)は2月8日、人工呼吸管理を要する重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、リンパ球数およびウイルス抗体価が、人工呼吸器離脱後の呼吸不全の再増悪に関与している可能性を見出したと発表した。
同成果は、阪大 医学部附属病院の足立雄一医員、阪大大学院 医学系研究科の白山敬之助教(呼吸器・免疫内科学)、同・加藤保宏特任助教(常勤)、同・内山昭則准教授(麻酔集中治療学)、同・熊ノ郷淳教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Journal of Infection」にオンライン掲載された。
COVID-19は約20%で重症化し、人工呼吸管理が必要となる患者も多い。呼吸状態が急速に悪化しうること、死亡率が高いことなどが臨床上の問題点として挙げられている。
人工呼吸器を装着した患者は病状が改善し、呼吸サポートが不要と判断されれば人工呼吸器から離脱となる。しかし一旦病状が改善したにもかかわらず、呼吸器離脱後に再び呼吸不全に陥るケースが一部に存在し、それは「再増悪」と呼ばれる。COVID-19に起因する炎症が、水面下でくすぶり続けている可能性が考えられているが、現在のところ再増悪を予測することは困難であり、その点も臨床上の問題点のひとつとされている。
これまでの報告において、リンパ球数やウイルス抗体価が重症化や死亡率に関与すると推測されている。しかし、これらの因子とCOVID-19による肺炎の再増悪との関係は明らかになっていなかった。
そこで研究チームは今回、人工呼吸管理を要した重症新型コロナウイルス肺炎の患者のリンパ球数および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体価の解析を実施した。ウイルス抗体価は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク、受容体結合ドメイン、ヌクレオカプシドタンパクに対する抗体価が測定された。
その結果、人工呼吸器離脱時点でのウイルス抗体価およびリンパ球数が両方とも低値である患者において、離脱後の再増悪が見られたという。抗ウイルス抗体の中でも、ウイルスがヒト細胞内へ侵入するのをブロックすると考えられる抗体(スパイクタンパク、受容体結合ドメインに対する抗体)の十分な産生が、病状安定化に重要であることが示唆されたのである。COVID-19において、一旦改善後の潜在的なくすぶり炎症を反映する指標として、ウイルス抗体価およびリンパ球数は有用である可能性が示唆されたとしている。
今回の研究は少数例の予備的検討であるが、ウイルス抗体価およびリンパ球数の推移を見ることで、潜在的な炎症のくすぶりをとらえることが可能だという。今後の重症患者に対する治療戦略の構築に寄与する可能性が期待されるとしている。