Samsung Electronicsは、最先端のロジックファウンドリを米国テキサス州オースチンに建設する場合、10億ドル以上の税制優遇を地元自治体に求めていることが、同社がテキサス州に提出した公式文書で明らかになったと地元オースチンの日刊紙「Austin American-Statesman」が2月4日付けで伝えた。

投資額170億ドルの最新鋭ファブ建設計画

Samsungの米国内次世代ファブ建設についてはさまざまな憶測が飛び交っているが、公式文書で確認されたのは初めてだという。

ただしSamsungは、オースチンに建設することをまだ決めたわけではなく、現段階では米国内の候補地の1つで、オースチンを選ぶ前提条件として税制優遇を求めているとしている。

州に提出された文書によると、新たなファブへの投資総額は170億ドル規模、敷地面積は700万平方フィート、従業員数は1800名であり、同社が建設地にオースティンを選ぶとすると、早ければ2021年第2四半期に作業が開始され、2023年末までに完成することが予定されている。

TSMCは米国政府の要請にこたえて、米国アリゾナ州に月産2万枚の5nmファブを2024年以降に稼働させることにしているが、Samsungは、それ以前に巨大ファブを稼働させて、米国内の有力ファブレスから最先端3/5nmプロセスでの製造受託を勝ち取ることを意図しているように見える。

工場建設と引き換えに10億ドル規模の税制優遇を要請

Samsungが州政府に提出した文書によると、新ファブは、従業員の初年度平均年俸として6万6254ドルを支給し、最初の20年間で86億ドルの地域経済的影響を及ぼす可能性があるとしている。

また同紙によると、Samsungは進出予定地のテキサス州トラビス郡から今後20年間で100%の減税を望んでおり、これは7億1830万ドルの価値があるという。5年間で8720万ドルの価値があるオースティン市からの50%の減税も求めているという。このほか、経済開発プロジェクトのための固定資産税の減税を与えることを可能にするテキサス税法の第313条の適用(推定2億5290万ドル相当)も要請しているという。

工場建設地決定を先延ばす背景

Samsungの経営幹部は、2021年1月末に開催した決算発表に際し、新ファブ建設に関して「米国内の複数の候補地を含む多くの場所を検討しているが、現時点ではなにも決定はしていない」と述べている。工場建設に際して、最大限の米国政府および地元政府の助成金や税制優遇を引き出すために、工場建設の決定を先延ばししているという見方が有力である。

オースティンには、Samsungの半導体工場であるSamsung Austin Semiconductorが20年以上にわたり操業しており、すでに隣接地を産業用地の名目で買い上げているが、ファブ新設に関して同社は「何も決まっていない」と言い続けている。

一方、米Teslaはオースチンに10億ドルのEV組み立て工場の建設を進めるほか、ハイテク大手のオラクルも本社をテキサス州に移転しており、テキサス州は経済発展ラッシュとなっている。テキサス州政府およびオースチン市はSamsungの新鋭半導体工場誘致を熱心に行っており、過去の実績から実現可能性が高いと見ているようだ。

なお2020年5月、経済産業省が海外半導体メーカーを日本に誘致して、日本の半導体および関連産業を活性化する計画が明らかになったが、日本には、米国とは異なり、ファウンドリの有力顧客がほとんどおらず、工場運営コストも他国よりも高く、税制優遇は財務省の権限でもあることから海外企業との交渉は難航している模様である。一方、米国は安全保障上の理由での半導体製造強化策に基づき、海外半導体ファウンドリの誘致に熱心で、TSMCやSamsungがそれに応じるとなると、ますます日本への工場誘致は絶望的となってくる。