千葉工業大学(千葉工大)、アドバンジェン、北海道医療大学(道医療大)、横浜国立大学(横国大)の4者は2月5日、毛周期において脱毛を誘導するタンパク質である線維芽細胞増殖因子である遺伝子「FGF5」の働きを阻害する「RNAアプタマー」(人工RNA)を開発したと発表した。
同成果は、千葉工大 先進工学部 生命科学科の坂本泰一教授、アドバンジェンの山本昌邦博士(研究開発部長)、道医療大 薬学部の堀内正隆准教授、横国大 機器分析評価センターの田中陽一郎博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
毛乳頭細胞から毛が生え出してから抜け落ちるまでのサイクルである「毛周期」は、毛が伸びていく「成長期」、抜ける準備をする「退行期」、そして抜け落ちるまでの「休止期」の3期で構成される。線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor)は、これまで23種類が同定されている。そのうちのFGF5が、この毛周期において成長期から退行期へのスイッチとなっていることが、これまでの研究により明らかにされている。
FGF5は、毛周期の成長期の終わりに「外毛根鞘」と呼ばれる部位で生産され、これが「毛乳頭細胞」にあるFGF5受容体と結合することで成長期を終了させ、脱毛につながる休止期を誘導するという役割を担う。FGF5は毛乳頭へと働きかけ、脱毛シグナルを出させているのである
このFGF5、実は自然変異で抑制されることがある。今回の研究では、このFGF5の働きを抑えて脱毛シグナルを出させないようにし、頭髪が抜けるのを抑制。そして頭髪がより長く頭皮に留まるようにすることで、より成長し続けられるようにすることが目標とされた。要は、頭髪が短い段階で抜け落ちずに伸びるだけ伸ばすということである。また、FGF5を抑制する医薬品(育毛剤の成分)を、RNAアプタマーで開発することも目標とされた。
なおアプタマーとは、標的とするタンパク質に特異的に強く結合し、その働きを阻害したり調節したりする核酸分子(DNAまたはRNA)のことだ。ただし、「標的とするタンパク質に特異的に強く結合し、その働きを阻害したり調節したりする」ということを実現するには、以前なら幾度ものトライ&エラーが必要だった。それを容易にしたのが、「SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)実験」または「in vitro selection 法」と呼ばれる手法だ。
同手法は、1000兆種類というとてつもない数のランダムな配列の核酸プールを作製したあと、その配列プールの中から標的分子に結合する配列の選別と増幅を繰り返すことで、「標的とするタンパク質に得意的に強く結合し、その働きを阻害したり調節したりする」機能を持ったアプタマーを得るというものである。
今回の研究では、SELEX実験を経て7種類のアプタマーが作り出された。そして、作り出されたRNAアプタマーとFGF5の結合は非常に強く、RNAアプタマーが結合することでFGF5はFGF受容体に結合できなくなることが確認されたのである。
また、RNAアプタマーとほかのFGFタンパク質との相互作用も調べられ、FGF5以外のFGFには結合しないことも判明した。これは、このRNAアプタマーを人体に投与した場合、ほかのタンパク質に作用しない、つまり副作用が少なくなることを示しているとした。
さらに、今回のRNAアプタマーは、FGF5のもうひとつの問題点を克服できる可能性もある。FGF5が、一部のがん細胞においてがん化を促進することが報告されているからだ。要は、今回のRNAアプタマーはFGF5がFGF5受容体に結合するという仕事をさせない効果があるため、がん化に関してもFGF5の阻害剤として活用できる可能性があるということだ。
現在、FGF5と同様の働きを持つFGF2を標的としたRNAアプタマーの研究が先行しており、それを用いた加齢黄斑変性症などの治療薬としての臨床試験が実施されているところだ。こうした生体内でのRNAアプタマーの効果が確認されれば、新たな育毛剤やがんの治療薬となることが期待されるとしている。