米宇宙企業スペースXは2021年2月3日(日本時間)、開発中の巨大宇宙船「スターシップ」の試作機「SN9」の高高度飛行試験を実施した。

SN9は打ち上げ後、計画どおり高度約10kmに到達。着陸には失敗したが、スペースXの担当者は「素晴らしい飛行だった」と讃えた。

スターシップの試作機の飛行試験は、昨年末の「SN8」に続き2回目。さらにSN10など、新しい機体による次の試験の準備も進んでいる。

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    着陸に向け降下するスターシップの試作機「SN9」。残念ながら機体の姿勢が崩れたまま墜落した (C) SpaceX

スターシップSN9とは?

スターシップ(Starship)は、スペースXが開発している新型宇宙船で、直径9m、全長50mの巨体と、銀色のボディを特徴とする。

先端部分には最大100人の乗組員、もしくは100tの物資を積んで、月や火星などへ飛行することができ、同社が構想している人類移住計画のかなめとなっている。

これまでに、巨大なタンクの製造・運用技術を確認する試験機や、新開発の高性能ロケット・エンジン「ラプター」の燃焼試験、そして小さなタンクとラプター・エンジンのみでの簡単な飛行試験などが行われてきており、現在は「SN(Serial Number)」と名付けられた、実機サイズの試作機を使った試験が行われている。

初期には、地上での試験中にタンクが破裂するなどの問題に見舞われたものの、昨年8月には「SN5」によって初めての飛行試験を実施。昨年12月9日には「SN8」による飛行試験も実施している。

今回のSN9は、 日本時間2月3日5時25分(米中央時間2日14時25分)、テキサス州ボカ・チカにある同社の試験場から離昇した。

SN9は順調に上昇し、途中で3基あるエンジンのうち1基を停止。その後2基目も停止させ、加速度を抑えながら上昇を続け、やがて最後のエンジン1基も停止。計画どおり、約4分後に高度10kmに到達した。

その後、機体を「ベリィ・フロップ(belly flop)」と呼ばれる、水平に寝かした状態にし、降下を開始。機体の前後に取り付けられた4枚の翼を折りたたんだり広げたり、まるでスカイダイバーの手足のようにばたつかせながら、姿勢を制御しつつ降下した。

計画では、着陸の直前に2基のエンジンに再点火し、機体をふたたび垂直に立て、逆噴射しながら着陸する予定だったが、1基しか再点火せず、さらに姿勢が大きく乱れた。

SN9はそのまま地面に激突し、爆発、炎上した。

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    上昇するSN9 (C) SpaceX

「素晴らしい飛行」、すでに改善策も

今回のSN9の飛行試験は、昨年12月9日のSN8の飛行試験とほぼ同じ内容だった。

SN8も高度約10kmに到達したのち、着陸の寸前まで順調に飛行。着陸直前に機体を垂直に立てる動作にも成功したが、エンジンの1基が停止。降下速度を落としきれず、着陸には失敗している。

スターシップは機体の後部にメインとなる大型のタンクを、また機体の前部に小型のタンクをもっている。

推進剤をすべて大きなタンクに収めてしまうと、着陸時にはほとんど空の状態になるため、少ない推進剤が広いタンク内でちゃぷちゃぷと動き回り、エンジンに送り込むのが難しくなる。また、推進剤が減るにつれ、機体の重心が大きく変わってしまい、機体の姿勢を制御するのも難しくなるという問題もある。

そこで機体の前部に小型のタンクを置き、そこに着陸に使う推進剤を入れておくことで、エンジンへの供給問題を解決するとともに、重心の移動を抑え、機体の制御もしやすくしている。

SN8の飛行では、使用するタンクを後部から前部へ切り替えることには成功したものの、前部タンクの圧力が低かったことで、エンジンに十分な量の推進剤が供給されず、エンジン性能が予定より低くなった、もしくは1基のエンジンへの推進剤の供給が止まった結果、着陸に失敗したものとみられている。

今回のSN9の飛行後、解説を務めたスペースXの名物エンジニアであるジョン・インスプラッカー(John Insprucker)氏は「高度10kmまでの素晴らしい飛行をふたたび成し遂げました。亜音速での再突入は、昨年12月のSN8で見たように非常に良好で安定していました」とし、そして「着陸用の推進剤タンクを使って、エンジンに点火する能力も実証しました」とコメントしている。

ただし、「着陸については、少し作業をしなければなりません」と付け加えた。

試験後、スペースXのイーロン・マスクCEOは「着陸には2基のエンジンが必要ですが、だからといって2基しか再点火しないというのは間違いでした。次は3基すべて点火させ、正常ならすぐ1基を停止させるようにしてみます」とコメントしている。

すでに次号機「SN10」はほぼ完成しており、SN9の打ち上げ前にはすぐ横に並べられていた。また、スターシップを打ち上げる第1段機体「スーパー・ヘヴィ」の試作機の開発も進んでいる。

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    テキサス州ボカ・チカの試験場に並ぶSN9とSN10、SN5 (C) SpaceX

SN10の試験飛行の時期について、SN9の打ち上げ前、インスプラッカー氏は「今月末(2月末)の飛行試験に向けて準備をしています」とコメントしていたが、SN9の着陸が失敗に終わったことで若干延びる可能性がある。

また、技術的な問題だけでなく、米国連邦航空局(FAA)の動きによっても左右される可能性もある。

SN9の試験後、FAAは声明を発表し「これは人を乗せない状態での試験飛行であったが、FAAが主導する調査によって、事故の根本的な原因を特定する。今後の開発プログラムにおいて、安全性をさらに向上させたい」と述べ、事故調査の指揮を執ることを表明している。つまり、スペースXがSN9が着陸に失敗した原因を特定し、その対策をSN10に取り入れたとしても、FAAがそれに納得しない限り、飛行試験ができない可能性がある。

FAAはSN9の飛行試験の前にも、詳細は不明なもののSN8の飛行試験の内容を問題視し、飛行試験の許可をなかなか与えなかった。それに対しマスク氏は「FAAの航空機部門は素晴らしいですが、宇宙部門は根本的に壊れた規制構造を持っています。彼らのルールは、政府のもつ打ち上げ施設から、年間数機の使い捨て型ロケットを打ち上げることを想定して作られています。このルールのままでは、人類が火星に到達することはできないでしょう」と不満の声を漏らしている。

マスク氏の不満には、米国の宇宙業界でも賛否両論があり、「安全は何よりも優先されるべきだ、FAAにはその責任と能力がある」とする意見が根強い一方で、米国の宇宙企業マステン・スペース・システムズのCTOを務めるデイヴィッド・マステン(David Masten)氏のように、「規制が必ずしも悪いわけではないが、現在のルールが実態に則しておらず、むしろ安全性の向上にとって妨げとなっている可能性もある」という意見もある。

SN9の飛行試験の様子 (C) SpaceX

参考文献

SpaceX - Starship
Starship | SN9 | High-Altitude Flight Test - YouTube
Starship SN9 loses a Raptor during flip. RUD comes as future Starships line up - NASASpaceFlight.com
Elon Muskさん (@elonmusk) / Twitter
David Mastenさん (@dmasten) / Twitter