新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術戦略研究センター(TSC)は2021年2月3日、日本でのバイオ技術とバイオ資源を活用する“バイオものづくり”産業を育成するための課題とその解決法などを解説する「環境・エネルギー分野に貢献するバイオ産業」と題した記者会見を開催した。

TSCはNEDOが進める様々な研究開発プロジェクトの技術開発の方向性などを議論し指針を出す役目を持つ組織。記者会見では、TSCのバイオエコノミーユニットの担当者が、日本政府が2050年までにカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を宣言したことを受けて、これを実現するためのバイオエコノミーの未来像を分析。その分析を基に、2050年までに達成を目指す環境調和・融和型の循環型社会形成を支えるバイオものづくり産業の育成指針などの道筋を解説した。

従来の石炭・石油・天然ガスなどの化石原料を基にした化学合成・分離技術を利用してつくる化学合成プロセスに対して、現在開発中のバイオ合成プロセスでは、一般的に低濃度の水溶液内での常温・常圧下での高選択性反応でつくられる。このため、例えば水溶液からの分離精製を行うなどのコスト高になる工程が必要となるジレンマがある。

また、結果的にバイオ合成プロセスでは廃水や廃棄物が多くなる可能性も高く、「このままでは結果的に合成する成果物がコスト高になる可能性が高いと考えられている」との分析結果を説明した。

  • バイオ合成プロセスのメリット・デメリット

    TSCが分析したバイオ合成プロセスのメリット・デメリット (出所:NEDO)

また、低濃度のバイオ合成プロセスでは、結果的に大量の原料の輸送コストがかかるという課題があるため、「輸送コストをかけない地産地消のようなバイオ産業の構造化を実現する技術開発が不可欠」と解説する。

同様に「バイオマス資源の外国からコンテナ船で運ぶなどの低コスト化を図る国際連携を実現する技術開発の考え方も選択肢として重要」とするほか、「畜産や活性汚泥、食品廃棄物などのバイオマス原料や未活用バイオマスを徹底活用するという視点も重要」とも指摘した。つまりバイオ産業の構造化には解決すべき問題が多いということになる。

こうしたバイオ合成技術開発の事例では、NEDOが2016年度から2020年度までの5年間にわたって実施した「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発」事業(通称、スマートセル事業)の中で、「コハク酸」という材料をつくる「有機酸をつくり出す代謝経路」利用のバイオ合成法の開発がある。この合成方法は従来の化学合成法に比べて廃棄物や廃水が多いという問題点が明らかになり、バイオ合成生産経路設計の重要性が示唆された。このことから「バイオ合成生産経路を効率化する生産プロセスや、分離精製・廃水処理の高度化によるコスト低減策も必要不可欠」と解説する。そのうえで、「生産経路設計を最適化できると、トータルコストで優位になるケースもある」と述べている。

同様に、民間企業の味の素での研究開発事例として、代謝設計技術を活用し、新しい代謝経路利用によるアミノ酸発酵生産プロセスを活用する生産経路設計を開発したケースを紹介し、バイオ合成技術開発の進め方の可能性を示した。

今回、バイオエコノミーユニットは“ターゲット市場領域”という考え方から、ユーザー企業側とメーカー側のバイオ産業側が協力してガラス代替光学樹脂やモーター・電池向け材料などの高付加価値品を共同研究開発するという、インパクトが高いターゲットの立て方の必要性にも言及した。

これは、“フラッグシップ・ターゲット”を共同して設定して、バイオマス原料からバイオ合成技術開発という実証事例を狙うことを意味する。

TSCは日本でのその実現の重要性を力説し、こうしたターゲット市場領域を目指す研究開発プロジェクトなどを、NEDOが実施する可能性を示した。

また、現在内閣府が実施している、「戦略的イノベーションプログラム(SIP2)」においても「マテリアルデータ、バイオデータを駆使して所望のポリマーを設計する研究開発プロジェクトからもバイオ産業での新しい可能性が産まれるだろう」と予測した。