2020年の上半期、新型コロナウイルス感染症の影響から主要な自動車モジュールサプライヤは半導体の調達に向けた動きを鈍くしたが、2021年初頭の段階では、世界の自動車市場は急速な回復傾向にあり、その出荷台数は2020年の7700万台から2021年には8400万台に増加すると台湾の半導体市場調査会社TrendForceが予測している。

車載半導体メーカーは、主にIDMのルネサス、NXP、Infineon、STMicroelectronics、ON Semiconductor、TIなどであるが、その製品についてはOEMメーカーによる厳格な生産ライン認定が必要であるため、すぐに別のルートで手配する、といったことは難しいとTrendForceでは指摘している。

こうしたIDM各社は近年、ファブライト化により多くの製品をファウンドリに生産委託しているが、2021年1月末時点で、ファウンドリの生産能力は不足しており、発注順であったり優先度の高いものから生産されるため、発注したからと言ってもすぐに製品を入手することは難しい。300mmウェハではマイコン、200mmウェハではディスクリート、パワーマネジメントICなどが挙げられるが、現時点でもっとも不足しているとされるのが200mmウェハ、0.18μm以上のノードで生産される品目であるとTrendForceでは示している。

TSMCは第4四半期の決算にて、車載半導体向けウェハの追加注文が第4四半期に出始めたことを示しており、現在、大口顧客からの突然の需要に対応するために、スーパーホットラン(ほかの半導体メーカーでは特急ロットとも呼ばれる)を採用することを検討しているが、ファブ全体の計画が狂うため実現は難しい模様だ。他社では、3割増しの費用でスーパーホットランを引き受けているところもあるというが、ほかの半導体デバイスの納期が遅れる弊害が出ているという。

台湾政府に各国から車載半導体増産要請圧力

こうした動きを踏まえ、台湾政府経済部(日本の経済産業省に相当)は、米国(商務省)、日本(経済産業省)、ドイツ(経済エネルギー省)などから外交ルートを通じて台湾ファウンドリに車載半導体を増産するようにとの行政指導の要請があったことを認めている。

台湾の王美花経済部長(日本の経済産業大臣に相当)は、TSMCやUMCなどの幹部を呼び、できる限り車載半導体を増産するように要請したが、各社ともすでにフル生産にあり、対応策として稼働率を無理やり100%を越えて引き上げるとともに、自動車以外の顧客に対し、受注を減らしたり納期を遅らせることができないか打診する検討を行うことにしたという。

台湾ファウンドリの売上高に占める車載半導体の割合は、自動車の生産台数が民生品よりけた違いに少ないため10%に満たず、しかも、要求が厳しいわりに利幅が小さく、ファウンドリにとってもともと敬遠されがちだという。

ファウンドリ関係者の中には、「2020年初めに新型コロナの影響が拡大した際に車載半導体サプライヤはファウンドリに対する発注を大幅に削減したのに、今になって政府に働きかけて優先供給を要望するのは、市場メカニズムに反する」といった批判的な意見もあるという。また「ファウンドリが自動車以外の顧客の受注を削減したり、車載半導体のためだけに増産したとなれば、他の長年付き合いのある顧客との関係を悪化しかねず、自動車メーカーが政治的圧力を使っても、効果は限定的だ」と指摘する向きもある。車載半導体の供給不足は簡単には解消できそうにはないようだ。