厚さわずか7マイクロメートル(1マイクロは100万分の1)と世界最薄かつ最軽量のフィルム状振動デバイスを、産業技術総合研究所とオムロンが共同開発した。極薄MEMS(メムス=微小電気機械システム)技術を活用したもので、パソコンのキーボードやゲーム機のコントローラー、医療機器などで多彩な触覚を表現するのに役立つという。
力や振動、動きなどで触覚を与える技術「ハプティクス」を実現するアクチュエーターとして、偏心モーターや、エネルギーや電気信号を運動に変換する「圧電セラミックス」が使われている。スマートフォンやゲームコントローラーなどに利用されているものの、これらは柔軟性やサイズの問題から、曲面への貼りつけや、複数並べるアレイ化が難しい。立ち上がりが遅くオンオフのみの制御で、表現できる触覚が限られている。
産総研とオムロンが開発したデバイスは、圧電セラミックスを極薄化し、反応速度とパワー、柔軟性を兼ね備えたハプティクス用圧電薄膜アクチュエーター。シリコンと金属電極薄膜、圧電薄膜、絶縁膜の多層構造となっている。大きさは5ミリ四方、厚さは7マイクロメートル。直流電圧をかけるとアクチュエーター全体がたわみ、交流電圧をかけると振動する。アルミホイルのように柔軟で、フィルム基板上に実装しても曲面に沿って貼りつけられる。
振動がよく伝わるよう、アクチュエーターとフィルム基板を貼り合わせる材料も工夫した。作製したハプティクスフィルムに10ボルトの電圧をかけると、指先で知覚できる限界の1マイクロメートルを十分に上回る、11マイクロメートルの振れ幅の振動が得られた。
このアクチュエーターを田の字型に4枚並べてアレイ化したハプティクスフィルムを作製。これを3種類のパターンで振動させ、指先の触覚でどのくらい識別できるかをテストした。4枚同時にオンとオフを0.5秒ずつ繰り返すパターンで97.5%が正答。一方、隣り合う2枚ずつ交互にオンオフを繰り返すパターンでは、50%台にとどまった。これは振動が強すぎて、オフ状態のアクチュエーターの領域にまで振動が伝わってしまったためとみられる。
開発グループの産総研センシングシステム研究センターの竹下俊弘主任研究員は「アクチュエーター自体の問題ではなく、フィルム側に振動を分離する構造を入れれば解決するのでは。振動の周波数や電圧の入れ方なども改良の余地がある」と説明する。
今後はさらに多くのアクチュエーターをアレイ化するなどして、多彩な触覚表現を目指す。竹下主任研究員は「かなり薄いデバイスで、耐久性が一番の課題。パソコンのキーボードやマウス、ゲームコントローラーへの実装のほか、遠隔医療で手術ロボットが加えている力を医師に伝えることや、癒やしやリラックスの用途など、多彩なエレクトロニクス機器への利用が見込まれる」と述べている。
成果はコロナ禍を受けオンラインで開催された米国電気電子技術者協会(IEEE)の国際学会「MEMS2021」で1月29日に口頭発表された。
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