名古屋大学 宇宙地球環境研究所(ISEE)は1月18日、独自の大型電波望遠鏡を用いた惑星間空間シンチレーション(IPS)観測によるデータを磁気流体シミュレーションに同化させた太陽嵐の予測システムを開発したことを発表した。
同成果は、ISEE 太陽圏研究部の岩井一正准教授と情報通信研究機構(NICT)の研究者らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球と惑星および宇宙を扱った学術誌「Earth, Planets and Space」に掲載された。
地球の生物の多くは太陽がなければ生きていけないが、その一方で太陽は破壊と死をもたらす危険な存在でもある。地上で生活する我々にとって、磁気圏と大気というふたつのシールドによって守られるため、ほぼ影響を受けることはないものの、太陽は360度全方位に放射線をばらまいており、その一部は当然ながら地球周辺にも飛来している。
通常レベルであれば、極域においてオーロラが発生するぐらいで、逆に自然の神秘を緩衝できてありがたいぐらいだ。しかし太陽は時折、巨大なプラズマの塊を弾丸のように惑星間空間に放出するという危険な行いをする。これが太陽嵐であり、別名「コロナ質量放出(CME)」とも呼ばれる。
このプラズマの塊はどの方向に向かって放出されるかはわからないため、必ずしも地球と衝突するわけではないが、それでも長期間で見れば確率はゼロではない。放出されるコースとタイミングによっては、地球圏を直撃する可能性もあるのだ。
地球が太陽嵐の直撃を受けた場合、GPS、気象、通信、放送など、世界中のさまざまな人工衛星が一気に故障してしまう危険性がある。GPSが壊れれば航空機は飛べず、船舶も出航は難しい。クルマの運転も昔ながらの地図帳便りになってしまう。また、国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士は人体に大きな影響を受ける恐れがあるため、地上に避難しないとならない。
さらに太陽嵐は大規模なものになると、大気圏を超えて地上にまで影響を及ぼす可能性すらある。広範囲に変電所などの送電網の重要な機器を故障させる恐れがあり、最悪の場合は複数の国家で送電網が壊滅し、いくつもの大都市が復旧までに何か月、もしかしたら年単位の長期間にわたって電力を利用できなくなる危険性すらあるのである。
このように宇宙活用が進む現代社会は、逆に太陽嵐の影響を受けやすくなっている。そのため、大きな危機的状況がもたらされる恐れがあるため、日本を含めて世界中で宇宙天気予報が重視されるようになっているのが現状だ。仮に太陽嵐が最悪の地球圏直撃コースだったとしても、発生が事前にわかって時間的な余裕があれば、宇宙飛行士は地上に慌てずに避難できるし、人工衛星やISSなども事前に電源を落とすなどして被害を最小限にするよう対策を取れるからだ。
こうした太陽嵐の観測を行っている機関のひとつがISEEであり、国内向けに宇宙天気予報を出しているのがNICTだ。その両者が力を合わせ、今回の太陽嵐予測システムは開発されたのである。今回のシステムは電波観測を用いて太陽嵐を検出し、そのIPS観測データを用いてコンピュータシミュレーションで予測を行うというものである。
そして同システムを用いた予測実験が実施され、そこにISEEのIPS観測データが加えられたところ、モデルの精度がさらに向上することが実証された。この予測システム+IPS観測データは、従来の宇宙天気予報で用いられてきた予測モデルと比べると、2倍近い高い精度であることが確認されたという。この値は、現在世界で開発されている太陽嵐の予測モデルの中でも最高水準になるとしている。
現在、NICTが発表している宇宙天気予報では、ISEEのIPSデータを用いた予測が始まっており、今後は今回開発されたシステムを用いることで、太陽嵐の予測精度が向上することが期待されるとしている。
,A@太陽嵐予測システム|
またISEEでは現在、太陽嵐を観測するための大型電波望遠鏡の次世代機の開発計画が進行中だ。今回の成果は、建設に向けた弾みになることが期待されるとしている。