千葉大学は1月18日、次々と提示される画像の中からターゲットとなる画像をすべて検出できた場合と見落としがあった場合などを比較し、感じられる時間の長さと実際の時間の長さとの関係を調査した結果、感じられる時間は提示したターゲットの数ではなく、検出の成否によって変動することが実証されたと発表した。
同時にこの結果から、感じられる時間とは体験された出来事の数ではなく、出来事を「体験した」と認識するために必要な認知的負荷が大きいほど長くなることが示され、このような認知的要因が感じられる時間の長さに及ぼす影響は、従来考えられていたよりも強いことがわかったことも発表された。
同成果は、千葉大 人文科学研究院の一川誠教授、千葉大大学院 人文社会科学研究科の三好正剛大学院生(当時)の研究チームによるもの。詳細は、知覚研究を対象としたオープンアクセスジャーナルの「i-Perception」に掲載された。
楽しいときは短く、退屈なときは長い。誰でも時間の流れる速さが変化しているのではないかと感じたことは一度や二度ではないはずだ。人間が感じる時間の長さについては、「主観的時間」と呼ばれる。その研究ではこれまで、体験される出来事の数が多いほど、その間に感じられる時間は長くなるものと考えられてきた。
しかし、感じられる時間の長さを決定するのは、出来事の数そのものなのか、それらの出来事を「体験した」という認識を成立させる際に生じた認知的負荷なのか、その点が明らかになっていなかった。なお認知的負荷とは、課題遂行のために費やされる認知的努力(速く動く対象を目で追う際に集中するなど)のことである。
そこで一川教授らは今回の研究で、ふたつのターゲットが連続して提示された場合に、2番目のターゲットを見落としてしまう「注意の瞬き」現象を利用して、知覚される刺激数とターゲット検出のための認知的負荷が、感じられる時間の長さに及ぼす影響の検討を実施した。
実験は、ターゲットとなる数字が0~2個含まれるアルファベット系列(17~20フレーム:系列A)と、数字を含まないアルファベット系列(16~21フレーム:系列B)という2種類の刺激系列を実験参加者に提示し(フレームは0.1秒ずつ連続で表示)、その中から数字(ターゲット)を検出するのと並行して、感じられた時間の長さを評価してもらうという内容である。
各試行において参加者は、確認できた数字ターゲットを答えた後、系列AとBどちらの方が時間を長く感じたのかと、どちらの方により多くのフレームが見えたかの判断を行った。
感じられた時間の長さについては、系列Aで刺激系列の中のターゲットがすべて確認できた場合には、ターゲット数によらず、同程度の割合で系列Bよりも系列Aの方が時間が長かったと感じられており、時間が過大評価されたことが確認された。一方、ターゲットを提示しなかった場合や「注意の瞬き」によって2番目のターゲットを見落とした場合、そうした過大評価は認められなかったという。
そして知覚されるフレーム数については、ターゲット検出の成否の影響も受けることがわかったが、実際に提示されたフレーム数にも対応して変動することが認められた。これらのことから、知覚されたフレーム数と感じられる時間の長さは対応していないことが判明した。
これらの結果から、刺激系列の観察中に感じられる時間の長さは、体験された出来事の数自体で決まるのではなく、ターゲット検出に必要な認知的負荷に対応して長くなるものと考えられるという結論に達したという。
今回の研究により、ヒトが感じられる時間の長さを決定する上で、認知的要因が、従来考えられていたよりも大きな役割を果たしていることを示していることがわかった。今後、認知的要因を操作することによって、楽しい時間を長くしたり、退屈な時間を短くしたりする方法を特定できるかもしれないとしている。