石川県立大学と北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は1月7日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に特徴的で、重症化に関与していることが示唆されているアクセサリー・タンパク質「ORF8」について、独自に開発したタンパク質大量合成システムを用いて均一に大量合成することに成功したと共同で発表した。
同成果は、石川県立大 生物資源工学研究所の森正之准教授、同・今村智弘特任講師、同大学 食品科学科の東村泰希准教授、JAIST ナノマテリアルテクノロジーセンターの大木進野教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Plant Cell Reports」に掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を克服するには、同ウイルスが持つタンパク質の機能解明が必須だ。ゲノム配列の解読により、新型コロナウイルスは少なくとも16種類の非構造タンパク質、4種類の構造タンパク質、少なくとも6または7種類のアクセサリー・タンパク質を感染細胞で合成することが明らかとなっている。
アクセサリー・タンパク質とは、感染した細胞内に侵入することで環境が変化しても、それに対応してウイルスが増殖できるよう助ける働きを持つ。そのアクセサリー・タンパク質のひとつであるORF8は、免疫や炎症に関わるタンパク質に結合する可能性が報告されている。またORF8はその遺伝子領域が欠失した新型コロナウイルスでは、感染者が重症化しにくいことから、重症化に関与していることが示唆されている。
そしてこの新型コロナウイルスのORF8の特徴として、近縁ウイルスの同タンパク質と相同性が低いことが挙げられている。つまり、新型コロナウイルスに特徴的なタンパク質ということだ。しかし、これまでのところOFR8の機能は解明されていない。機能を解明するためには、まず均一かつ大量にORF8を合成する必要があるが、これまで誰も成功していなかったからだ。そこで共同研究チームは今回、ORF8の均一な大量合成に挑んだのである。
ORF8の均一な大量合成が難しいのは、その分子内に3か所の「ジスルフィド結合(S-S結合)」を持ち、さらにS-S結合で2量体になる複雑な構造をしているからだという。こうしたタンパク質を大量合成する際は、一般的に大腸菌が利用されるが、この複雑さのためにそれが不可能だったのである。
そこで共同研究チームが選択したのが、以前に独自開発した、タバコ培養細胞(タバコBY-2細胞)を宿主とする植物ウイルス(タバコモザイクウイルスが属するトバモウイルス属)を用いる大量タンパク質合成システムだ。この独自の合成システムの特徴は、薬剤(エストラジオール)の添加によって、S-S結合を持つ複雑な目的タンパク質を同調的に大量合成することが可能なことだという。
このシステムを用いてORF8の合成が試みられ、その結果、培養液1LあたりORF8を約10mg合成することに成功したとした。
合成したORF8は核磁気共鳴装置を用いた詳細な解析が行われ、均一な構造を持つORF8が生産されていることが明らかとなったのである。
共同研究チームは、今回のシステムで均一かつ大量に合成したORF8が用いられることで、同タンパク質の機能が明らかになることが期待されるとしている。さらに、ORF8をターゲットとした治療薬の開発も期待できるとした。