花王マテリアルサイエンス研究所と奈良先端技術大学院大学 先端科学技術研究科情報科学領域の金谷重彦教授は共同で、ディープラーニング技術を応用し、少量のデータからでも予測モデルを作成する技術の開発と、なぜその予測にたどりついたのか画像を用いて解釈を行なう方法を確立した事を発表した。
従来、素材開発はトライアンドエラーを繰り返す方法で行なわれていたため、莫大な時間と費用が掛かっていたが、同研究では触媒と樹脂を例に、少ないデータ量からディープラーニングで活性やガラス転移点の予測ができる技術の開発を行い、同研究の成果が素材開発の高速化やAIの予測手法を検討する事で新しい素材開発の手がかりになる事が期待されるとしている。
触媒の写真を用いた活性の予測モデル作成
触媒は化学反応を速める物質で、洗剤の界面活性剤の製造などに用いられている。 触媒を開発するには、触媒が化学反応を促進する効率、すなわち触媒の活性を上げることが重要だとされている。 今回、2級アミンとアルコールを反応させた時の銅触媒の微細な構造を電子顕微鏡で撮影し、活性が高かった場合、低かった場合の違いをディープラーニングを用いて学習させることで、活性を上げる構造を予測するモデルを作成した。
研究チームで作成した予測モデルを確認したところ、非常に高精度なモデルの作成に成功したことがわかったという。また、触媒中には反応原料が拡散するための穴であるメソポア(2-50nm)とマクロポア(>50nm)が存在しているが、今回得た画像から、マクロポアの周辺の構造が活性に影響を与えているという具体的な予想が得られたとしている。 この知見を設計に活かすことで、より活性の高い触媒の開発につながると考えられるという。
ポリエステル樹脂の化学構造式を用いたガラス転移点の予測モデル作成
プラスチック容器などの素材となる樹脂の開発では、形状に関わるガラス転移点(樹脂が硬質から軟質なものへと性質を変える温度の事)を予測することが重要であり、用途に合わせて樹脂のガラス転移点をコントロールする必要があるという。今回はポリエステル樹脂において、化学構造からガラス転移点を予測するモデルの作成を行った。
研究チームで予測モデルを分析評価した結果、ガラス転移点の温度を高精度に予測できることがわかったという。また、今までは官能基の置換位置はガラス転移点に大きな影響を及ぼさないと考えられていたが、得られた画像を確認したところ、ベンゼン環に対する官能基の置換位置(オルト位、メタ位、パラ位)がガラス転移点に大きな影響を与えていることがわかったとしている。
この知見を設計に活かすことで、樹脂のガラス転移点をコントロールできると考えられるという。
同社は同技術をほかのさまざまな素材開発にも応用が可能だとしており、データ科学と研究者の知見を融合することで、効率的に素材開発を行なうことができるようになると考えられるとしている。