国立感染症研究所は22日、英国で見つかった新型コロナウイルスの変異株について「伝播のしやすさ(感染力)は最大7割増加し、(国内流入阻止のため)変異株の監視体制の強化を推奨する」との見解をまとめた。変異株は日本国内ではまだ見つかっていないが、デンマークやベルギー、オーストラリア、イタリアでも確認されているという。また厚生労働省に対策を助言する専門家組織は同日「(変異株が)重症化を示すデータはないが(国内流入すると)医療への負荷が危惧される」との見解を発表した。

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    新型コロナウイルスの電子顕微鏡画像(英国で見つかった変異株のウイルスではない、NIAID提供)

感染研は英国の保健当局などから入手した情報を基に「英国では、過去数週間にわたって、ロンドンを含む南東イングランドで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例の急速な増加に直面している」と日本の研究機関として英国の変異株について初めて公式に言及。英国のほか、デンマークで9例、オランダで1例、ベルギーで4例 、オーストラリアで1例、イタリア(症例数不明)で確認されたとしている。

また、ゲノム解析などから変異株は当初の中国・武漢株と比べ29塩基異なり、変異は新型コロナウイルスの抗原であるスパイクタンパク質に関わる部分も含まれることが判明したが、感染研は『ワクチンの有効性への影響は不明』としている。変異株の再生産数(R)はこれまでの流行株より0.4増えて、感染力は最大7割増加することが示唆される、とした。

変異株とワクチンの有効性との関係について、ドイツ・ベルリン発共同通信電は21日、『ドイツのシュパーン保健相が変異種(株)にもワクチンが効果を発揮すると述べた。米ファイ-ザー社製のワクチンを念頭に置いた発言とみられる』と伝えている。

見解はさらに、変異株の監視体制の強化、特に最近2週間以内に英国を訪れたことがある陽性者の検体の提出を求め、ゲノム解析する必要性を指摘。英国からの入国者については必要に応じ、指定施設での停留措置や航空便の運航停止も検討するよう求めた。

感染研は22日までに国内と空港検疫を合わせて1万4077件のゲノム解析を終えたが、これまで異種は見つからなかったという。

厚労省によると、国内のCOVID-19による累積死亡者数は22日に3000人を超えた。12月の死亡者数は11月の2倍以上になって増加傾向が顕著で、医療関係者の危機感は極度に高まっている。厚労省への助言専門家組織は同日会合を開催。会合後に脇田隆字座長が記者会見し「今後感染者数の増加を抑えない限り、重症者と死亡者の増加につながる連鎖を断ち切ることは難しい」と述べた。

同会合に提出された資料によると、東京都の受け入れ病床数に占める入院重症者の割合は12月9日時点の55%から16日には66%と増加。その後も上昇しているとみられる。東京都医師会によると、都内医療機関、特にCOVID-19の患者を診る機関の医療スタッフ不足は深刻で、東京の新型コロナ医療体制は崩壊寸前という。

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    新型コロナウイルス感染症の入院者数と重症者数の増加を示すグラフ(厚労省提供)

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