2013年の高年齢者雇用安定法改定や、2015年の女性活躍推進法、国連サミットでのSDGs採択など、多様な人材をどう活かすかが企業の課題となっている。

本田技研工業(ホンダ)は12月21日、人材の多様化に技術で応えるべく、同社の先端科学技術の研究を担う、ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI-JP)とホンダ太陽、ホンダR&D太陽の3社で聴覚障がい者と健聴者の双方向コミュニケーションをサポートするシステム「ホンダ・コミュニケーション・アシスタンス・システム」(Honda CAシステム)を開発、社内利用の様子をメディアに公開した。

  • Honda CAシステムの機材

    Honda CAシステムの機材

ホンダ太陽、ホンダR&D太陽は、「障がいのある人達の社会的自立の促進」と言う理念のもと設立された特例子会社。 聴覚障がい者と健聴者が勤務する、ホンダR&D太陽内で両者間のコミュニケーションの問題が顕在化したことから、2017年より3年半をかけHonda CAシステムを開発、実証を進め、2020年9月より各事業所で導入を図っているという。

Honda CAシステムは、マイクロフォンを通して発話すると、テキスト配信PCが音声を取り込み、音声認識サーバーに転送。音声認識サーバーに搭載されたAI音声認識システムにより、リアルタイムでテキスト化が行われ、テキスト配信PCを介して各タブレットにテキストが配信される仕組みを採用することで、円滑なコミュニケーションを実現することを可能としている。

  • Honda CAシステムの概要図

    Honda CAシステムの概要図

テキスト配信PCには、自社で開発したテキスト配信、マイクからの音声の取り込みといったソフトウェアのほか、音声認識の開始、終了、テキスト表示、修正、各種設定などのユーザーインタフェースを備えている。

また、AI音声認識システムも自社で開発したもので、2年半にわたる実証とAI学習により、ホンダ内で使用される専門用語も認識可能。発話からテキスト化まで約2秒で実現でき、単語の認識誤り率も9%程度に抑えられているという。

普段、実際に会議で使用しているというホンダの二輪事業本部 ものづくりセンターのメンバーがデモを見せてくれた。

  • 発話者がマイクロフォンに向かって発話すると

  • 各メンバーのタブレットにテキストが写し出される

    各メンバーのタブレットにテキストが写し出される

  • 自分の意見をタブレットに書き込むことができる

    メンバーはタイピングや手書き入力によって、自分の意見を伝えることができる

会議のデモを行ったメンバーからは、「私は補聴器をつければ聞こえないこともないが、聞こえないときは主に相手の口の動きを読むことで内容を理解していた。しかし、コロナ禍でマスクの着用が求められ、口元が隠れてしまうと、何を言っているのかが分からないので、こういったシステムはとても助かっている」といった感想が述べられていた。

別のメンバーからも「今までは、わざわざ筆記で伝えてもらうのが、とても申し訳ないと思っていたが、このシステムがあることで気軽に会議に参加できるようになってありがたい」と、このシステムを使うことで、聴覚障がい者と健聴者を垣根を越えたコミュニケーションが、これまで以上に円滑に進んでいるといった感想もあった。

自動車メーカーである同社が、こうしたシステムを開発する背景には、「技術は人のために」という同社の研究開発に対する信念があるという。

なお、ホンダでは、現在は音声認識の問題でPCのマイクを通す必要があるが将来的にはスマートフォンのマイクなどさまざまなデバイスで対応可能にしていくとしているほか、手話の認識など、より幅広い人たちが働きやすい環境の実現に向けた技術の開発を進めていきたいとしている。