ヒューマノイド(ヒト型ロボット)と人工知能(AI)を組み合わせ、状況を判断して対応するなど自律して細胞の培養実験を続けるシステムを開発した、と理化学研究所などの研究グループが発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で研究施設への立ち入りが制約を受け、実験の継続が大きな課題となってきた。実用化できればこうした時期にも安全に効率よく実験を続けられ、新たな研究スタイルにつながると期待される。
研究グループは、2本の腕で人と同じ道具を扱える生命科学実験用のロボットを利用。このままでは指示がないと動かないが、AIのソフトウェアを組み合わせて“頭脳”を持たせ、自律して細胞を培養できるようにした。AIには、顕微鏡画像から細胞の密度を求め、過去のデータを基に予測を立てるなどの機能を盛り込み、ヒト胎児腎細胞の培養を試みた。
その結果、ロボットは決められた12時間ごとに実験プレート上の細胞の密度を算出。そこから細胞が増殖を続け、密度が80%を超える時間を予測した。その時間にプレートから一部の細胞を取り出し、新しいプレートに植え替える「継代」の作業を行った。2019年12月29日から年越しをはさんで9日間にわたり実験し、継代を繰り返した。その間、人が介入しなくても作業し、重大なエラーや細菌の混入などの異常はなく、自律して細胞を培養することに成功した。
既に自動培養装置が数多く実用化されており、所定の細胞を決まった手順で大量生産できる。ただ手順が未確定の基礎研究や、条件を考えるような実験への対応は難しかった。
生命科学の実験は夜間や休日、年末年始に継続する必要に迫られることも多い。またコロナ感染拡大で、大学や研究機関では実験室の厳しい立ち入り制限を余儀なくされてきた。こうしたシステムが実用化されれば実験の継続を容易にし、研究者らの負担軽減にもつながりそうだ。人の手で行う場合に比べ、実験を事後検証しやすい利点もある。
理研生命機能科学研究センターバイオコンピューティング研究チームの高橋恒一チームリーダー(計算生物学)は「将来はiPS細胞(人工多能性幹細胞)の培養に生かしたい。成果を早く臨床現場に届けたい」と述べている。科学知識の発見にも活用し得るという。
研究グループは同チームのほか、同センター網膜再生医療研究開発プロジェクト、ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社、京都大学医学部眼科学教室で構成。成果は生命科学実験の自動化に関する米国の専門誌「SLASテクノロジー」の電子版に3日付で掲載され、理研と科学技術振興機構(JST)が4日発表した。研究はJST未来社会創造事業による支援、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により行われた。
関連記事 |