科学技術振興機構(JST)の経営企画部エビデンス分析室は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連論文数の発表件数が世界のトップ医学系科学技術論文誌(ジャーナル)で、2020年1月以降に急増している現象の分析・解明を進めている。今回、その分析速報が公開され、発表論文数は2020年の後半に入っても依然として増加傾向にあり、さらに論文引用数も異常な勢いで増えていることが明らかにされた。
JSTの経営企画部エビデンス分析室は、新型コロナ論文の分析・解析の速報版を2020年7月にも公開しているが、今回、公表されたのは第2弾の速報版ともいえるもの。その内容は2020年12月16日に開催されたJST理事長記者説明会の中で報告された。
米国クラリベイト・アナリティクスが提供している世界最大級の学術文献引用データベース「Web of Science」で公開されている新型コロナウイルス感染症に関連する論文数は2020年7月には2万1393件と、増加が確認された2020年1月からの半年間で2万本を超したが、その勢いは下期も続いており、10月には4万7491本とさらに倍増する勢いで増加しており、12月8日時点の速報値ながら、「この勢いはまだ続いている」と、分析室では報告している。
Web of Scienceは、旧トムソン・ロイター時代(クラリベイト・アナリティクスは2016年にトムソン・ロイターの知的財産・科学事業を引き継ぐ形で設立)から提供されているオンライン学術データベースで、ノーベル賞受賞者予想としても知られるクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞などでも活用されている。
分析室による12月8日時点(速報値)での、国別の新型コロナ論文数によると、単純集計による国別ランキングとしては第1位は米国の1万5622本で圧倒的に多い。続く第2位は中国の6774本、そして第3位は英国の6055本と続いている。この数値は単純に投稿した研究開発者の国籍を数えたものだが、実際には複数の国の研究開発者が共著として書いたものも多く、この共著を国別に“分数カウント”として数え直すと、第1位は米国の1万2483.8本、第2位は中国の5549.9本と変わらないが、第3位はイタリアの4230.0本で、英国は第4位の3938.8本という結果となっている。
また、引用された本数が多いサイテーション上位10報の論文としては、第1位が中国医学科学院・北京協和医学院の「武漢での感染患者における臨床的特徴」(Lancet)で被引用数は7971、第2位は広州医科大の「中国におけるCOVID-19臨床的特徴」(NEJM)で同5123、そして第3位が「武漢感染肺炎の入院患者138人の臨床的特徴」(JAMA)の同4794となっており、上位10報を中国の論文が占めるという結果となったという。
分析室によると、「新型コロナ論文の引用面では特殊な傾向が明らかになった」としている。というのも、新型コロナ論文は約半年の間に、引用数論文が7000本を超したとのことで、この指数関数的な引用数の急増ぶりは、iPSの論文が約9年かかって増加した速さを超えるほか、CRISPER(DNAを精密にカット&ペーストする遺伝子編集技術)の論文が10~11年かかってそのレベルまで増加したことを踏まえると、異常な勢いとも言えるが、逆にいえば、それだけ多くの研究者が集中して研究している証拠ともいえそうだ。
筆者注:iPSに関する論文については、2006年8月、京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めて細胞を培養して人工的に作られた多能性の幹細胞(iPS細胞)について書かれた論文などを指し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞する過程までの経緯を中心に引用論文が増えていった。
また、CRISPERに関する論文では、2020年にノーベル化学賞として、全遺伝情報(ゲノム)を効率良く改変できる「ゲノム編集」で画期的な技術を生み出しという点でドイツのマックスプランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ教授と米カリフォルニア大バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授が授与した過程までの経緯を中心に増えて来た傾向を示している