近年、ニュースなどで目にすることが多くなったMaaS。MaaSとは、「Mobility as a Service:モビリティ・アズ・ア・サービス」 の略称で、バスや電車、タクシー、飛行機など、すべての交通手段による移動を一つのサービスに統合し、ルート検索から支払いまでをシームレスにつなぐ考え方のこと。
トヨタ自動車は2018年、移動、物流、物販など多目的に活用できるMaaS専用次世代電気自動車「e-Palette Concept」を開発した。複数のサービス事業者による1台の車両の相互利用や、複数のサイズバリエーションを持つ車両による効率的かつ一貫した輸送システムといったサービスの最適化を目指している。現在、トヨタを筆頭にさまざまな企業がMaaS市場に乗り出してきている。
不動産業界でもMaaSを推進する動きが目立っているが、三井不動産は、街で暮らす人々に新たな体験価値を提供することを目的として、ヒト・モノ・サービスの「移動」に着目したモビリティ領域への取り組みを12月15日に開始した。
同社が掲げるモビリティ構想では、昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響もあり、「仕事」や「暮らし」「買い物」などの選択肢が多様化していることを受け、アセット(資産)のボーダレス化への対応や、不動産のサービスとしての利用に注力する。
例えば、「仕事」と「暮らし」の重なる領域においては、自然豊かな環境の中で働くワーケーションのニーズが新たに生まれている。そこで同社は、モビリティを活用することによって、多様なアセットを効率的に組み合わせて使い分けるための効率的な移動サポートや、不動産の枠組みを超えた可動型の柔軟なサービスの提供が可能になると考えた。
「動かない資産である不動産に『移動』を掛け合わせることで、従来の不動産では成し得なかったサービスを実現していく」と、三井不動産 ビジネスイノベーション推進部長の須永尚氏は今後の展開に意気込みを見せた。
不動産とモビリティサービスが結びつくことによって、「自らが移動する」「コンテンツが移動する」という2つの選択肢が生まれ、目的に応じてワークプレイスや、店舗、ホテルなどの多様な不動産コンテンツを選んで利用する生活が実現される。
同社のモビリティ構想における具体的な取り組みは、不動産×MaaS事業と移動商業店舗だ。
■ 不動産×MaaS
同社は前者の取り組みの第一弾として、2020年9月に柏の葉エリアにてフィンランド発のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」を活用した実証実験を開始したが、12月15日から日本橋エリア、12月21日からは豊洲エリアにおいても実証実験を開始する。
Whimは、目的地までの検索、予約、決済そして実際にモビリティに乗車するところまでを1つのアプリでシームレスに行うことが可能。使用可能なモビリティは現時点で最大4種(カーシェア、シェアサイクル、バス、タクシー)あり、ユーザーのその都度の利用用途に合わせることができる。
例えば、目的地をアプリに入力することで、そこまでの最適な移動手段が表示されアプリ内で決済できるほか、車や自転車の鍵の解錠もスマートフォン一つで行うことが可能。
同実証実験では、これらモビリティを月額定額制(サブスクリプション)のサービスとして提供し、ユーザーは4つの交通サービスを横断的に利用することが可能。また、同社が管理する物件の敷地内にはWhim会員専用のモビリティとしてカーシェアおよびシェアサイクルを設置し、自己保有のモビリティ感覚で利用することを可能にしている。
柏の葉エリアにおける実証実験(9月12日~10月31日)の利用実績では、利用者の7割程度が自家用車を保有していなかったこともあり、全体としてはカーシェアの利用回数が多かったという。またMaaSの利用により、「いままで降りたことがなかったバス停で下車して周囲を散歩してみた」など、利用者の6割程度が初めての場所への外出が増えたとのこと。
サブスクリプションプランは、3パターン(1万円、5000円、2000円)あり、それぞれ20%上乗せされた「Whim Credit」(Whim Creditの金額分乗車可能)がアプリ内で使用できる。
同社は将来的に、住宅に加えて各地域にある商業施設、オフィスなどを含めてMaaSの提供を行い、それぞれのコミュニティ間をつないでいくことで、都市の活性化と付加価値向上を目指す考えだ。現在、具体的なサービス開始時期は未定とのこと。
■ 移動商業店舗
同社は、不動産×MaaS以外にも、車両と店舗が一体となった「移動商業店舗」プロジェクトも始動し、店舗とスペースのマッチングプラットフォームを構築する。同プロジェクトでは、2020年9月から、首都圏・近郊5カ所(豊洲・晴海・板橋・日本橋エリア、千葉市)において10業種11店舗の事業者とともにトライアルイベントを実施している。
移動商業店舗はユーザーと出店事業者の双方にメリットをもたらす。ユーザーに対しては、場所に依存しない買物体験を生み出す。出店事業者は、固定店舗とEC以外の第三のチャネルを持つことで、これまで以上にユーザーの嗜好性や購買行動を知り、また、ユーザーが多く滞留するピークタイムを狙うことで、場所を移動させ店舗売上の向上につなげることが可能になる。
同社は、不動産業で培った知見を活用し、出店事業者に対して場所や曜日、時間別でのピークタイムを考慮したルート案内を提供する。
例えば、午前中は商業施設にいたアパレル関係の移動店舗が、昼頃は、専業主婦などをターゲットにして住宅地に移動し、夜は、退勤時のオフィスワーカーをターゲットにしてビルや駐車場に移動するなど、効率的な販売や潜在顧客の発掘につなげるといったことだ。今後、実証実験を通して得られるデータも積極的に活用するとのこと。
事業者は、車両の貸出料と出店料を支払うことで出店可能で、料金については調整中とのこと。同社は今後、商業店舗のみならず、ワークプレイスやホテルといった不動産も移動サービス化させる方針だ。