東北大学は12月15日、沖縄県内の小学生1542人を1年間追跡し、最初の時点において永久歯のむし歯の本数ごとにグループ分けを行い、各グループ中で1年後に永久歯が新たにむし歯(う蝕)に罹患した本数の統計学的な調査を実施した結果、1年間にむし歯に罹患した永久歯502本のうち、約60%の300本が最初の時点ではむし歯の永久歯が1本もなかった児童から発生したことを発表した。

同成果は、東北大大学院 歯学研究科 歯学イノベーションリエゾンセンター 地域展開部門の草間太郎歯科医師、同・相田潤教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際科学雑誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」にオンライン掲載された。

むし歯は世界で最も有病率の高い疾患であり、日本でも、小学生の有病率は減少傾向にあるものの、学校保険統計では依然として最も有病率の高い疾患だ。成人に至るまでに大多数の人が罹患経験を有しており、そのため、小児期からの有効な予防対策が必要とされている。

予防医学の分野においては、少数の高リスク群よりも、多数の低リスク群からの発症が全体の発症数の大部分を占める「予防のパラドックス」という現象が知られており、そのため集団全体に対する予防策であるポピュレーション・アプローチの必要性が支持されている。

しかしむし歯に関してはこれまで、追跡研究によって「予防のパラドックス」を明らかにした研究は存在しなかったという。そこで研究チームは今回、小学生のむし歯の罹患を対象として、むし歯においてもほかの疾患と同様に「予防のパラドックス」が観察されるのかを調査することにしたとしている。

今回の研究は、沖縄県内の小学校4校の学校歯科検診データを基にした縦断研究として行われた。1~5年生1542人を対象に、2014年に最初の調査が、そしてその1年後の2015年に再度の調査が行われた。

2014年時点での永久歯のむし歯の数のカテゴリーごとに、1年後の2015年時点で1人当たり永久歯のむし歯が何本増加したのかを、負の二項回帰モデルにより、性別、学年、所属小学校を調整したうえで推定値が算出された。この推定値を、2014年時点でのむし歯の本数カテゴリーの人数と掛け合わせることによって、各むし歯の本数カテゴリーから合計何本の新規むし歯罹患歯が発生したのかが推定された。

対象者1542人中、2014年時点で永久歯にむし歯がなかった児童は1138人(73.8%)で、1年後の1人当たりの新たに罹患したむし歯の本数の平均値は0.38本であることが導き出された。

  • むし歯

    2014年時点での永久歯のむし歯の本数ごとのむし歯罹患歯数 (出所:東北大プレスリリースPDF)

負の二項回帰モデルによる1人当たりの新たに罹患したむし歯の本数の推定値は、2014年時点で永久歯にむし歯が1本もなかった児童で0.26本(95%信頼区間:0.22-0.31)、1本あった児童で0.45本(95%信頼区間:0.33-0.56)と、むし歯を有していた児童の方がむし歯に罹患するリスクが高いことが判明した。

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    小学生におけるむし歯(う蝕)のリスクとむし歯の罹患本数の合計 (出所:東北大プレスリリースPDF)

しかし、むし歯の本数のカテゴリーごとに罹患本数の合計を計算すると、永久歯にむし歯が1本もなかった児童から発生したむし歯の本数は300本(95%信頼区間:250-350)と最も多く、1年間に発生したむし歯の合計の59.7%を占めていることがわかったのである。つまり、むし歯においても低リスク群からの罹患数の合計が集団内の理関数の総数の大部分を占めるという、「予防のパラドックス」が確認されることとなった。

  • むし歯

    新規のむし歯罹患歯の合計に占める割合 (出所:東北大プレスリリースPDF)

現在、学校歯科保健においては、歯科検診および未治療のむし歯を有する児童への受診の推奨が行われている。しかし今回の研究結果から、むし歯がない児童であってもその多くが1年後にはむし歯に罹患しており、その数が全体に占める割合は大きいことが判明した。

このことから、従来の検診と受診推奨だけでは、むし歯予防には不十分であり、むし歯がない児童も含めて、集団フッ化物洗口やシーラント・プログラムなどを含む、包括的な予防アプローチを実施することが将来のむし歯罹患の予防につながるといえるとしている。