東京都立大学、産業技術総合研究所(産総研)、名古屋大学(名大)、筑波大学の4者は12月14日、3原子程度の極細構造を持つ遷移金属「モノカルコゲナイド(TMC)」の新たな合成技術を開発し、その大面積薄膜の合成と原子細線の束状構造などの形成、そしてそれらの光学応答・電気伝導特性の解明に成功したと発表した。
同成果は、都立大 理学研究科 物理学専攻のLim Hong En特任助教、同・中西勇介助教、同・遠藤尚彦研究員、同・安藤千里大学院生、同・清水宏大学院生、同・柳和弘教授、同・宮田耕充准教授、産総研 極限機能材料研究部門の劉崢上級主任研究員、名大工学研究科 応用物理学専攻の蒲江助教、同・竹延大志教授、筑波大 数理物質系の丸山実那助教、同・岡田晋教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米化学会が発行する「Nano Letters」に掲載された。
近年、次世代の機能性材料として、原子数個分の厚みを持つ薄膜(原子層)や細線(原子細線)が世界中で注目を集めている。原子厚の薄膜としては、ノーベル物理学賞の受賞対象にもなったグラフェンシートを含め多彩な物質が作製され、その基礎・応用研究が進展している。
また原子細線に関しても、カーボンナノチューブをはじめ、さまざまな金属化合物などの研究が続けられている。しかし、多くの原子細線は結晶構造の乱れや不均一性が起こりやすく、構造が均一かつ高い結晶性を持つ物質の多量合成は、その基礎物性の解明や応用研究に向けた大きな課題となっている。
均一な構造を持つ原子細線としては、モリブデン(Mo)やタングステン(W)などの遷移金属原子と、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)などのカルコゲン原子からなるTMC(画像1)が知られており、3原子程度の直径という究極的に細い構造や金属的な電気伝導性などにより、注目が集まっている。TMCの組成は、遷移金属とカルコゲン原子が1:1の割合で含まれ、互いに共有結合で結びつき、3原子幅程度の細線を形成するのである。
TMC原子細線は、多数ある遷移金属原子とカルコゲン原子の組み合わせや、細線の集合状態、および細線間に異種元素を存在させるなどで、半導体から金属、そして超電導体など、さまざまな性質を実現することが可能だ。しかし、これまで報告されたさまざまな合成法では、得られる試料の量やスケールアップ性、カーボンナノチューブ内のみで合成できる点、または細線自体の長さや結晶性など、いくつもの課題を抱えていた。
共同研究チームは今回、高い結晶性を持つ原子細線からなる大面積薄膜を合成するため、気相で基板上に供給する化学気相成長法を採用。原料には、同チームがこれまでに開発してきたもの(遷移金属とカルコゲン元素)が用いられた。
そして成長条件の探索が行われたのち、cmサイズの基板上に、TMC原子細線が数十~数百本集積してできたナノファイバーからなるネットワーク状の薄膜の合成に成功したという。さらに基板表面の結晶構造を利用し、ナノファイバーが一方向に配向した薄膜を得られることも発見された。
また今回の手法では、個々のTMC原子細線とその集積体が高い結晶性を持つことに加え(画像2c)、細線が2次元的に配列した単層や2層のシートや、高さ方向にも細線が積み重なった3次元的な束状構造を形成することも見出されたという。そしてTMC原子細線の光散乱も測定され、1次元的な構造を反映した光学応答を示すことが確認されたとした。
さらに、このような細線が集合した束やそのネットワーク状の薄膜が、高い電気伝導度や低温での電気抵抗の減少など、金属としての性質を示すことも実験的に明らかにされた。第一原理電子状態計算による予測と一致することも確認されたという。
共同研究チームは、今回の実験で合成された3原子程度の微細な原子細線や、その2次元シートや3次元束状の凝集構造を利用することで、1次元や2次元の領域に閉じ込められた電子の特殊な性質の理解や制御、微細な配線や透明で柔軟な電極、非常に小さな電力で動く電子デバイスやセンサー、高効率なエネルギー変換素子などへの応用が期待されるとしている。