はじめに

時間は非常に貴重な、限りのある必需品といえますが、監視するのは面倒で、管理が大変で、しかし忘れるわけにはいかないものです。私たちが日常生活を送る上でも、多くの電子機器は、主として私たちが日常生活の目安に使っている現実のリアルな時間、つまり、秒、分、時間、日、および年を追跡管理する能力によって支えられています。

  • RTC IC

    図1. 電子機器は現実の時間を常に追跡管理する必要がある

バッテリ動作のポータブル、ウェアラブルおよびIoT機器は、予測可能な周囲条件の中で動作する余裕のある電源を備えた据え置き型の電子機器に比べて、はるかに多様な(そして時には極端な)動作条件と環境条件に晒されています。最新の気象情報を送信する場合も、運動時の平均消費カロリーを計算する場合も、IoTおよびモバイル機器は、たとえ低温多湿、または高温多湿の場所で激しい身体の動きに晒される可能性があっても高精度かつ高信頼性で時間を追跡管理する能力が不可欠です。この記事では、これらの条件が水晶発振器ベースのリアルタイムクロック(RTC)の性能仕様にどのような悪影響を与えるかを説明した後、堅牢性が必須のアプリケーションでより高い計時精度と堅牢性の向上を両立させるRTC ICを紹介します。

RTCの動作

大部分のRTC ICは、ほとんどの電子機器アプリケーションで使用される標準の計時基準である32.768kHzの水晶発振器から導かれる1Hzのクロック信号を使用して、秒を数えることによって時間と日付の情報を管理します。時間と日付の情報は1組のレジスタに保存され、I2Cなどの通信インタフェースを介してアクセスします。水晶はICに外付けまたは同じパッケージ内に内蔵されます。計時精度、堅牢性/耐久性、電力、およびサイズは、RTCを選択する際に検討すべき重要な仕様です。これから検討するように、それぞれの相対的な重要度は、スタンドアロンのRTC ICを選ぶか、あるいはシステムマイクロコントローラにもともと内蔵されているものを使用するかの選択に影響します。

計時精度

RTCの計時精度は、使用するタイミング基準の精度と同じぐらいです。残念ながら、標準的な32.768kHzの音叉型水晶は、広い温度範囲にわたって高精度とは言えません。放物線形状の特性を備えているため、この精度は室温(+25℃)で±20ppm(typ)になります。これは1日に1.7秒、または年に10.34分の進みまたは遅れに相当します。

  • RTC IC

    図2. 温度に対する水晶の精度

堅牢性 – 衝撃および振動

上の図から分かるように、より高温または低温では精度が大幅に低下します。これらの温度での精度は150ppm(typ)を大幅に下回り、1日にほぼ13.0秒、または年に1.3時間以上の遅れに相当します。また、水晶は特定の容量性負荷において適正な周波数で発振するように調整されているため、12.5pFの負荷用に調整された水晶を、水晶に対して6pFの負荷になるように設計されたRTCに使用すると、クロックの動作が高速になりすぎます。クロックを遅らせる不必要で余分な容量の影響を最小限に抑えるために、注意深い基板レイアウトおよび実装が要求されます。コンデンサを内蔵したRTCの場合、計時精度はICメーカーの製造許容誤差によって制限されます。

モバイルおよびポータブル機器は、常に機械的な衝撃や振動に晒されます。運動中のアスリートの動きによってフィットネストラッカーが受ける振動の場合も、あるいは気象観測気球から地上に落下するテレメトリ機器が受けるGの力の場合も、それぞれの使用例に固有の課題があります。

  • RTC IC

    図3. 気象観測気球

水晶発振器は比較的壊れやすく、非常に強い衝撃や振動によって損傷する可能性があります。より穏やかな条件で動作する場合でも、単なる経年劣化によって年に約±1ppmの割合で精度が低下します。

耐久性 – 温度

実装時、プリント基板はリフロー工程で繰り返し高温に晒されます。この工程は、RTCの精度に悪影響を及ぼします。以下の図は、標準的なリフロー・プロセスが水晶ベースのRTCの性能に与える影響(リフロー前およびリフロー後)を示しており、最大5ppmの変位が生じています。

  • RTC IC

    図4. リフロー前後の水晶ベースのRTCの計時精度

消費電流およびサイズ

消費電流とサイズには直接の相関関係はありませんが、両者の間には関連性があります。

多くのアプリケーションは、システムのマイクロコントローラに内蔵された水晶発振器ベースのRTCを使用します。これによって基板上のICの数は減りますが、マイクロコントローラが超低電力「ディープスリープ」モードに移行するのが妨げられるという、想定外の結果につながる可能性があります。たとえば動きが検出されたときにのみウェイクアップして画像を送信する(それ以外はスリープモードのままになっている)リモートモーション検出カメラなど、連続的に使用されないIoT機器の場合にこれが重要になります。機器が使用されていないときにも高精度の計時を維持する必要がありますが、標準的なマイクロコントローラはRTC回路をウェイクアップ状態に保つためだけに600nAを消費する可能性があり、機器のバッテリの消耗が早まる結果になります。また、計時精度も、マイクロコントローラの製造メーカーによって決定されることにも注意が必要です。外付けのRTC ICベースのソリューションは、より高精度で低電力になる可能性を備えたソリューションを設計するための柔軟性を提供します。

内蔵MEMS共振器/発振器で高性能を実現

図5は、これまで説明したすべての機能要件を高いバランスを実現したRTC ICの機能ブロック図を示したものとなります。

  • RTC IC

    図5. MEMS発振器を内蔵したMAX31343 RTCのブロック図

このMAX31343 ICは内蔵のMEMS共振器および発振器を使用して、水晶発振器ベースのRTCに比べて複数の優位性を提供します。時間変動は±5ppm(または日差±0.432秒、-40℃~+85℃)と4倍の計時精度を提供し、経年または基板はんだ付け時のリフローによる変動も±2ppm以下に抑えています。また、水晶発振器ベースのRTCより堅牢で、機械的衝撃(最大2900G、5回の衝撃×6軸、JESD22-B104C条件H)および振動(可変周波数20G、20/2000Hz、JESD22-B103B条件1)に耐えることができます。

さらにこのICは、双方向I2Cバスを介して、マイクロコントローラとのシリアルデータ通信が可能です。冗長性をさらに高めるために、このRTCは内蔵の電圧リファレンスおよびコンパレータ回路を使用してVccの状態を監視します。これによって、メインのシステム電源に障害がありそうな場合を検出することが可能になり、必要に応じて自動的にバックアップ電源(再充電可能バッテリまたはスーパーキャパシタ)に切り替えることができます。

MAX31343の動作電流は940nA(typ)で、48mAh定格のBR1225リチウムバックアップバッテリで5年間以上の計時を提供可能です。内蔵のトリクルチャージャは、通常動作時にバックアップバッテリを満充電状態に維持します。その他の便利な機能として、2つの設定可能な時刻アラーム、割込み出力、補正なしの設定可能なクロック出力、および温度補償された設定可能な方形波出力があります。このデバイスは8ピンWLP(2.1mm×2.3mm)、または8ピンTDFN(4mm×3mm)のいずれかのパッケージで提供され、広い1.6V~5.5Vの電源範囲で動作します。

まとめ

バッテリ動作のIoT、ポータブルおよびウェアラブル電子機器は、大幅に変化する環境条件で動作し、機械的な振動と衝撃に耐える十分な堅牢性を備えることが期待されます。ここでは、それらが一般的に使用される水晶発振器ベースのRTC回路の精度と性能にどのような悪影響を与え、一部のアプリケーションに適さないかを説明し、内蔵MEMS発振器を使用して環境条件や機械的衝撃・振動にほとんど影響されない優れた計時精度を提供するRTC ICを紹介しました。このデバイスの標準的な動作での消費電流は1μA以下で、産業用センサ、アクションカメラ、ハンドヘルド計測器、およびウェアラブルなどの過酷なアプリケーションでの使用に向いています。

著者プロフィール

Binay Kumar Bajaj
Maxim Integrated
ビジネスマネージメント(コア製品グループ)担当ディレクター

米サンタクララ大学(Leavy school of Business)でMBAを取得し、電気工学の学士号も取得

Michael Jackson
Maxim Integrated
主席テクニカルライター

アイルランドのダブリンシティ大学で工学の修士号を取得