千葉大学は12月7日、食物アレルギーの治療法であるものの、その機序についていまだ不明な点が多かった「経口免疫療法」の治療メカニズムの一端を解明したと発表した。

同成果は、千葉大大学院 医学研究院の倉島洋介准教授、東京大学 医科学研究所の清野宏教授、同・高里良宏医師らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国学術誌「Mucosal Immunology」にオンライン掲載された。

食物アレルギーは、日本において約120万人もの患者がいるとされている。その症状は、かゆみやじんましんに始まり、おう吐、下痢のほか、最悪の場合ショックを起こして死に至るケースもある危険な疾患だ。そのメカニズムは、白血球の一種である「マスト細胞」がアレルゲン(アレルギーを起こす物質)を受容し、「ヒスタミン」などのアレルギー物質を放出することで発症してしまう。

そこで共同研究チームは今回、食物アレルギーの有望な治療法である経口免疫療法に着目。経口免疫療法とは、アレルゲンとなる原因食物を連日少量ずつ摂取することで、耐性(免疫寛容)を獲得するという治療法だ。

同治療法は有効であることはわかっているが、実はどのような作用機序でアレルギーの根治につながっているのかについて、まだ不明な部分も多い。要は研究段階の治療法でり、そのため治療中の副反応や成功率の低さといった課題も抱えている。

これまでの研究で、経口免疫療法の作用機序についてわかってきたことは大きく2点。まず同治療法を行うことで、マスト細胞の「低応答化」が起きるということ。そして、アレルギーの抑制細胞である「制御性T細胞」が増えるということだ。しかし、治療の中でマスト細胞の低応答化と制御性T細胞の増加がどのように関連しているのかは不明だった。

共同研究チームは今回の研究のために、独自に食物アレルギーの経口免疫治療モデルマウスを作りだし、比較実験を行った。その結果、経口免疫療法を行いアレルギー症状が軽減された群では、マスト細胞が大きくその性質を変化させていることが判明した。

低応答の状態になることに加え、制御性T細胞を増やすサイトカイン(タンパク質の一種)である「IL-2」や、アレルギー症状を抑えるサイトカイン「IL-10」を産生していたのである。つまり、アレルギーを起こす悪玉細胞からアレルギー反応を抑える善玉細胞へとその性質が変化していることが発見されたのである。

  • 食物アレルギー

    (左)アレルギー反応が起こる仕組み。(右)今回の研究によって明らかにされた経口免疫療法のメカニズム。アレルギーを引き起こす悪玉だったマスト細胞が、アレルギーを抑制する善玉細胞に変化する (出所:千葉大学Webサイト)

次に、食物アレルギーの経口免疫治療の途中にマスト細胞をマウスの体から除去する実験が行われた。すると、制御性T細胞が減少すると同時に、制御性T細胞のアレルギーを抑える性質も低下していることが確認されたとした。

さらに、経口免疫療法の試験管内における模倣が行われたところ、善玉となったマスト細胞の作製に成功という。つまり、経口免疫療法によるアレルギー治療の成功には、アレルギーを起こすマスト細胞がアレルギー物質を放出させないように低応答化するだけではなく、マスト細胞自身がアレルギーを抑える細胞へと機能を転換させるメカニズムが重要であることが判明したのである。

今回の研究成果により、不明な点が多かった経口免疫療法を成功させるカギのひとつが明らかになったという。今後は、アレルギーの悪玉細胞を善玉細胞へと効率的に切り替えるスイッチ機構を明らかにすることが目標だとする。スイッチ機構が明らかになれば、それを応用した切り替え促進薬の開発が期待されるからだ。さらには、スイッチ機構を制御し、悪玉細胞から善玉細胞への切り替えを安定して行えるようにすることで、食物アレルギー治療の精度向上に貢献できる可能性もあるとしている。