九州大学(九大)、熊本大学(熊大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、神戸大学(神大)、千葉工業大学(千葉工大)、早稲田大学(早大)の6者は12月8日、高温で乾燥した時代として知られる中生代三畳紀(約2億5190万年前~約2億130万年前)の中で、後期の約200万年間(約2億3200万年前の前後100万年)にわたって劇的に降雨量が増加した“雨の時代”こと「カーニアン多雨事象」は、非常に大規模な火山活動が引き金となって起こったことを明らかにしたと共同で発表した。合わせて、火山活動の活発な時期に雨の時代が訪れたことで、海洋での生物群の大量絶滅や、陸上での恐竜の多様化といった生態系の変化も同時に引き起こされた可能性があることも発表された。

同成果は、九大大学院 理学研究院の尾上哲治教授、同・奈良岡浩教授、熊大大学院 自然科学研究科の冨松由希大学院生(九大委託研究生)、JAMSTECの野崎達生グループリーダー代理、早大 理工学術院総合研究所の高谷雄太郎主任研究員(研究院准教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Global and Planetary Change」にオンライン掲載された。

三畳紀の地球では6つの大陸すべてが合体しており、超大陸「パンゲア」が形成されていた。超大陸では沿岸部から離れた地域の面積が広大となるため、パンゲアの多くは高温かつ乾燥した気候だったことがわかっている。

  • カーニアン多雨事象

    中生代三畳紀後期のカーニアンの時代における地球の大陸の配置。大陸がすべて集まった超大陸パンゲアがあるということは、広大な大洋もあるということであり、それが超海洋「パンサラサ海」だ。このパンサラサ海で大規模な火山活動が起こり、それが引き金となってカーニアン多雨事象が誘発された。このときに噴出した大量の玄武岩の岩体は、海洋プレートの移動によって分裂し、現在は日本、極東ロシア、北米北西部などに分布している (出所:6者共同プレスリリースPDF)

しかしそんな三畳紀の中にも異質の時代がある。三畳紀を地質年代的にさらに細分化した際の後期に属する、約2億3700万年前から約2億2700年前までの「カーニアン」の時代だ。カーニアン時代は2億3200万年前を境に、前期カーニアンと後期カーニアンに分かれるが、この2億3200万年前を中心とした前後約100万年ずつは、例外的に世界各地で湿潤な気候だった痕跡が残されている。約200万年も続いた雨の時代だったのである。

  • カーニアン多雨事象

    オスミウム同位体分析および有機炭素同位体分析から明らかにされた、大規模火山活動とカーニアン多雨事象の年代関係。恐竜の多様化も、カーニアン多雨事象の時期に始まったと考えられている。(上)地質年代の区分。中生代は、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の3つに区分され、三畳紀はさらに細かく区分される。三畳紀の後期は3つの地質時代に区分され、最初がカーニアン。約2億3700万年前から約2億2700万年前までの1000万年だ。またカーニアンは、500万年ずつ前期と後期に分けられている。カーニアン多雨事象は、おおよそ2億3300万年前から2億3100万年前の200万年間続いた。(中)チャートのオスミウム同位体比。(下)コノドント化石による有機炭素同位体比 (出所:6者共同プレスリリースPDF)

この気象変化はカーニアン多雨事象と呼ばれ、いくつもの生物群の絶滅や大規模な進化的変化があった時期と一致していることが知られている。恐竜の爆発的な多様化や哺乳類の誕生などもこの時期に含まれると考える研究者も多く、地球の歴史上で特に重要な時代のひとつとなっている。

また最近になり、この長雨を起こした原因として、現在の北米北西部に分布する「ランゲリア洪水玄武岩」の火山活動が挙げられている。ただし、玄武岩の噴出年代測定に伴う不確定性のため、ランゲリアの火山噴火とカーニアンの気候変化および生物群の大変化が同時に起きたと明言するのは、これまで困難とされていた。

そうした背景のもと、共同研究チームは今回、カーニアン多雨事象の原因を解明するために注目したのが、岐阜県坂祝町の木曽川河床に露出した「チャート」だ。同地域のチャートは、カーニアン時代に属していることがわかっており、その年代測定を実施したのである。ちなみにチャートとは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする硬く緻密な珪質堆積岩のことだ。主に、「放散虫」と呼ばれる二酸化ケイ素の骨格を持つ海生浮遊性プランクトンの死骸が、陸域から遠く離れた深海底に降り積もってできた岩石である。

分析の結果、カーニアン前期に属するチャートから、マントル特有の低いオスミウム同位体比が検出された。オスミウム同位体比とは、原子番号76番の白金族元素のオスミウム(Os)の安定同位体188Osに対する、同じく安定同位体187Osの比(187Os/188Os)のことだ。同元素は強親鉄性元素のため、地球の中心核やマントルには豊富に存在するが、通常は大陸地殻においては非常に少ない。つまりオスミウム同位体比が低いということは、大規模な火山活動に由来するオスミウムが、カーニアン前期の海洋に大量に供給されたことを意味するのである。

さらに共同研究チームは、「コノドント化石」にも着目。同化石は、古生代カンブリア紀(約5億4100万年前~約4億8500万年前)から三畳紀末(約2億130万年前)まで約3億年にわたって生息した原始的な脊椎動物であるコノドントの歯と考えられている。リン酸塩鉱物からなり、大きさは0.2~1ミリ程度の微化石である。

このコノドント化石に対し、堆積物中に含まれる有機物の炭素(C)の同位体13Cに対する同じく同位体12Cの比を調べる「有機炭素同位体層序」を用いた年代測定が実施された。その結果、大規模な火山活動の時期とカーニアン多雨事象の時期が一致することが究明されたのである。つまりカーニアン多雨事象は、大規模な火山活動が引き金となった可能性が高いことが示された。

この火山活動により噴出した火山岩の候補としては、上述した北米北西部のランゲリア洪水玄武岩のほか、日本の秩父山脈や紀伊半島~四国~九州中部と続く三宝帯や極東ロシアのタウハ帯などがある。カーニアン前期に噴出した玄武岩が総延長3000kmにわたって太平洋を取り囲むように分布しているのだ。

  • カーニアン多雨事象

    カーニアンの大規模火山活動の証拠が発見された、岐阜県坂祝町取組。木曽川右岸に露出したチャートのオスミウム同位体比が分析された。(左)パンサラサ海で起きた大規模な火山活動により噴出した玄武岩の現在の所在地。日本では秩父山脈と、紀伊半島~四国~九州中部の三宝帯がそれ。極東ロシアはタウハ帯。分析されたカーニアン時代のチャートは、三宝帯とはまた異なる美濃-丹波帯と呼ばれる地層に含まれる。(右上)調査地点の俯瞰写真。(右下)調査地点のチャートの露出地点の(画像)。左側がカーニアン後期で、右側が前期のもの (出所:6者共同プレスリリースPDF)

共同研究チームは今回の分析結果から、これらの玄武岩がカーニアン前期の超海洋パンサラサ海で巨大火成岩岩石区を形成していたとする仮説を提唱。これこそが、カーニアン多雨事象の引き金になったとした。かつて、ひとつの巨大火成岩岩石区を形成していた玄武岩は、海洋プレートの移動により分裂し、現在では日本、ロシア、北米北西部などに分かれて存在しているのである。

今回の研究により、正確なタイミングが明らかにされた三畳紀カーニアンの大規模火山活動は、地球上で5回もしくは6回起きたとされるほかの時代の大量絶滅(たとえば古生代ペルム紀末など)に類似した現象を引き起こした可能性があるという。大規模な火山噴火が気温の急激な変化を引き起こし、海洋の無酸素化に至り、海洋生物の大量絶滅が導かれるというシナリオだ。

実際に今回の研究からは、火山活動の最盛期に海洋底が無酸素化したことが明らかになっており、今後はこの無酸素化と、この時代に起こったとされる大量絶滅との関連性を詳細に調べる必要があるとしている。

一方、陸上では、火山活動に端を発するカーニアン多雨事象に伴って、陸上植物の変化と恐竜の爆発的な多様化が起こったことがわかっている。哺乳類の起源については議論が続いているところではあるが、その出現はカーニアン多雨事象とほぼ同時期であったと考える研究者も多い。カーニアン多雨事象はまさに、我々人類につながる事象だったのだ。この火山活動により、具体的にどのような環境変化が陸上で引き起こされたかについても、今後研究を進めていく必要があるとしている。