独立系ナノテク研究機関であるベルギーimecが、従来のファインメタルマスク(FMM)を用いた蒸着法ではなく、フォトリソグラフィを用いて有機半導体と有機EL(OLED)パネル積層構造のカソードのパターンを形成することで、デバイスの信頼性を向上させる方法を開発したと発表した。
詳細は12月9日~11日に開催されるディスプレイ国際会議である「International Display Workshop (IDW) 2020」で発表される。
フォトリソ技術は、ディスプレイ上に集積された指紋センサなどのパターンの高解像度化やカソードの透明度の向上を可能にするため、有機ELメーカーにとって今後重要な技術になるとimecは主張している。
モバイルディスプレイの分野では、画面と筐体の比率を上げる必要があるため、メーカーは画質を劣化させることなく、ますます増加する機能(前面カメラ、指紋センサなど)をスクリーン内に埋め込む必要がある。ハイエンドのモバイル、TV、PC/ラップトップアプリケーションでも、メーカーはアクティブマトリックスOLED(AMOLED)を提供し、鮮やかな色や柔軟で超薄型のフォーマットなどの独自の特性を売りに市場拡大を狙っている。
現在、AMOLEDで赤、緑、青の発光層(EML)パターンを作成するために、ファインメタルマスク(FMM)が広く使用されている。また、いくつかの企業は、インクジェット(IJP)による印刷プロセスを用いて150ppiの解像度を超えるAMOLEDディスプレイを実現しているが、FMMは大面積のガラス基板への適用が難しく、IJPも蒸着法と比べて信頼性が低いという欠点がある。
今回の研究では、フォトリソ技術の使用により、より高い設計の自由度を可能にし、信頼性の点でも有望な結果を得ることに成功したという。例えば、imecでは1μmピッチ(ラインとスペース)の有機半導体上にパターンを作成したというが、これは、約12000ppiの解像度に相当する。また、より高い波長でのOLEDフロントプレーンの透明度は、カソードパターニング後に20%から70%に増加したという。
さらに、パターン化されたOLEDの1000nit(輝度)での信頼性テストとしてT95(ディスプレイの画素要素が最初の明るさの5%を失うのにかかる時間)は200時間以上と良好の結果が得られており、パターニングしたOLEDとしなかったOLEDで寿命に違いがなかったという。
なお、imecのセンサー技術のR&DプロジェクトリーダーであるTung Huei Ke氏は、「フォトリソグラフィの化学とOLED材料の化学との相性が良くないため、OLEDのフォトリソグラフィによるパターニングはこれまで困難だった。特に、水と酸素に対する材料のフォトリソによるパターン化のステップ後の劣化が課題で実用的ではないと考えられていたが、今回考案された手法では、高い信頼性を示すことができた。これは、OLEDのパターニング手法としてのフォトリソグラフィ技術を次のレベルに引き上げるための重要なマイルストーンとなることから、引き続き産業パートナーと協力して大量生産の技術を成熟させて行きたい」と述べている。