パリ協定の目標を何とか達成しても日本を襲う強い台風が増え、豪雨が増える。文部科学省と気象庁が、今世紀末に予想される気候変動に関するさまざまな予測データをまとめた報告書「日本の気候変動2020」を公表した。報告書は、パリ協定が目指す今世紀末の気温上昇「2度未満」という目標が達成されたケースを「2度上昇シナリオ」として、予測されるさまざまな気候を示した。パリ協定が努力目標とする「1.5度」を世界が目指す必要があることを示す内容になっている。

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    報告書「日本の気候変動2020」(文部科学省と気象庁提供)

報告書はまず「日本国内で観測される(温室効果ガスの)二酸化炭素、メタンや一酸化二窒素の大気中の濃度は上昇を続けている。2019年も綾里、南鳥島及び与那国島のいずれの観測点でも二酸化炭素濃度は観測史上最も高い値を記録した」と注意喚起した。

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    大気中の二酸化炭素濃度変化。左は世界平均、右は日本の観測点での変化(文部科学省と気象庁提供)

その上で報告書は「2度上昇シナリオ」について「21世紀末の世界平均気温が工業化以前と比べて0.9~2.3度上昇する可能性が高いシナリオで、パリ協定の2度目標が達成された世界であり得る気候状態」と定義。さらに今後新たな温室効果ガス排出緩和策を取らなかったケースを「4度上昇シナリオ(上昇幅は3.2~5.4度)」とし、それぞれのケースで今世紀末に日本で予想されるさまざまな気候、気象現象を示している。

それによると、日本の気温は2度上昇では年平均気温は約1.4度、4度上昇では約4.5度上昇。猛暑日は年間で2.8日、19.1日それぞれ増えるとした。降水量も増え、「非常に激しい雨」とされる「1時間降水量50ミリ以上」の頻度は1.6倍、2.3倍それぞれ増加すると予測した。

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    21世紀末の日本の年平均気温の変化分布。左は4度上昇シナリオ、右は2度上昇シナリオ。右端の数字は上昇温度数を示す(文部科学省と気象庁提供)

台風の増加頻度の具体的な数字は示さなかったが、2度上昇では日本近海の平均海面水温は1.14度、4度上昇では3.58度上昇すると予測。日本近海で発達する台風のエネルギー源である大気中の水蒸気量が増加するために、4度上昇の場合のシミュレーション結果を基に「猛烈な台風」の発生頻度は増える可能性が高いとしている。

日本沿岸の平均海面水位は2度上昇では20世紀末より39センチ、4度上昇では71センチ上昇すると予測し「平均海面水位の上昇は浸水災害のリスクを高める」と指摘した。上昇量は黒潮の影響が強まると考えられる地域で大きいが、それ以外の地域では地域差はないという。

このほか報告書は、今世紀末には北海道の内陸部などを除き、全国的に降雪・積雪は減る可能性を示した。年最大の降雪量や積雪量は2度上昇では約30%、4度上昇では70%減少するとしながら「平均的な降雪量が減少したとしてもごくまれに降る大雪のリスクが低下するとは限らない」としている。

パリ協定は、2015年12月に採択された地球温暖化の影響を防ぐための国際協定。産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指している。全ての参加国が自主的な削減目標を掲げて国内対策に取り組んでいるが、各国の現在の目標水準では達成は困難とみられ、各国には削減目標を上積みする努力が求められている。

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