豊田合成は2020年11月30日、東北大学発ベンチャー企業のボールウェーブ(本社仙台市)に、1億円を出資したと発表した。
同社から出資を受けたボールウェーブは、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用する高精度なガスセンサーなどを製品化・事業化する目的で、2015年11月に創業された東北大発ベンチャー企業である。
ボールウェーブは創業してからは燃料電池利用向けの微細な水素ガスや半導体製造時の微細な水分をナノレベルで検出できるSAWガスセンサーなどの革新的なガスセンサー製品の事業化を図って来た。
今回、豊田合成が同社に出資した背景には、同社が保有する高度な表面処理技術を活用し、空気中の新型コロナウイルスを検出するセンサーの実用化を将来的に目指す目論見とみられている。豊田合成はウイルスを殺菌できる深紫外LED技術を持っているため、これと組み合わせる製品戦略を持っていると推論されている。
ボールウェーブは、東北大の未来科学技術共同研究センター(NiCHe)の山中一司教授(現在は名誉教授)が研究開発していたボールSAWを応用した高性能・高感度なガスセンサーを基に、微量水分計などの製品化・事業化を図る目的で創業された。露点マイナス100℃での微量な水分を検出できるガスセンサーを製品化し、半導体製造やガス製造などのプロセスでの利用を目指してきた。例えば、「GaN(窒化ガリウム)系の結晶製造では、濃度1ppm以下の水分管理が品質管理では求められている。液化天然ガスの製造でも重要な品質管理項目になっている」と、ボールウェーブの赤尾慎吾代表取締役社長は、創業時から説明してきた。
この山中教授の研究開発成果は科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業のCRESTに採択され、ボールSAW利用のガスセンサーの基盤研究を実施したことが出発点になっている。この結果、水晶などの圧電性の結晶球の表面にSAW回路をつくり、SAWの長距離伝搬現象を利用した高速・高性能なガスセンサーとして機能するというめどをつけた(図)。
ボールウェーブは、2016年9月に東北大学の100%子会社である東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP、本社仙台市)、他のVC(ベンチャーキャピタル)3社がと協調し、総額2億3000万円を資金調達している。THVPとともに投資したのは大和企業投資(本社東京)、七十七キャピタル(本社仙台市)、SMBCベンチャーキャピタル(本社東京)である。
また、2018年11月には第三者割当増資によって6億円の資金調達をし、順調に成長してきた。今回の豊田合成による出資によって、同社の製品戦略・事業化戦略がより進むと推定されている。