2020年末時点で、世界の80億のモバイル契約のうちわずか2%が5Gになると言われています。このように、5Gのビジョンはまだ実現にはほど遠いにも関わらず、6Gへの取り組みがすでに始まっています。新世代の無線の開発には時間がかかるため、実用化の何年も前から6Gへの取り組みは始まっているのです。

  • 6G

5Gの初期の研究は、ユーザーと社会を中心とした視点に基づいたテクノロジーを開発する段階でした。6G開発に携わる企業もこの例にならいます。ITUSamsungNTTドコモOulu大学のホワイトペーパーには、革新的なユースケースやネットワーク属性についての説明があります。触感的なホログラフィック通信、正確なデジタルツイン、クラウドの産業用IoT(インダストリアルIoT)、社交的および社会性に関するIoT、コミュニケーションとコンピューティングを社会と融合させるAIの普及などです。

従来の重要な性能指標(KPI)には1Tps、1000kmphのモビリティー、ならびに0.1msのレイテンシーが含まれています。新しいKPIにはタイミングの精度と正確さ(「時間内」および「時間通り」のコミュニケーション)と位置を、センチメートル単位で特定する性能が含まれます。ビジョンやKIP解析は十分にカバーされていますので、ここではデザイン、テスト、測定における6Gの影響について説明します。

6Gのデザインやテストはどのようになるのかとよく聞かれますが、今までの5世代がアイデアから主流へ進化していく様を見てきて、いくつか予想できることがあります。

  1. テストは従来型と新規の両ドメインで行います
  2. テストテクノロジーとソリューションは時間とともに進化します
  3. システム全体の複雑なシステムレベルでの検証は前世代よりもさらに大きな役割を担います

歴史が示すように、実現には時間がかかると言って間違いありません。1940年代後半にベル研究所が特許を取得した周波数の再利用の概念を元に、オペレーターあるいはプッシュツートーク機能を必要としない自動化移動無線システムが1970年代の初めに考案されました。NTTが1979年に初となる商業用システムを立ち上げると、1981年にサウジアラビアと北欧が続き、NMT、そしてAT&Tが1983年に米国でAMPSを開始しており、初めての考案に続く各世代は10年間隔で立ち上がっています(図1参照)。

  • 6G

    図1:移動体通信測定 - その歴史

移動無線により、まず最初に電話をどこにでも持ち運ぶことができるようになり、今ではオフィス、教育、エンターテイメントがあらゆる場所で可能になりました。

次のステップは6Gが社会の不可欠な存在になることです。業界は最先端のテクノロジーを手ごろな価格で、と常にプレッシャーをかけてきます。私たちが当たり前だと思っていることの例として、1Gはマイクロプロセッサなしでは実行不可能でしたし、2Gと3Gはデジタル無線のトランシーバーに革命が必要でした。そして4Gはリチウムイオン電池なしには存在しなかったでしょう。

それと同じようなプレッシャーがテストや測定要件の進化をも牽引しました。私たちは電波物理学の測定にかなりのフォーカスを充てることから始めました。それは電力、感度、ならびに干渉の問題です。その後の各世代は2つの軸で変化をもたらしました。1つめはこれらの測定が行われるべき方法、2つめとして多くの場合、システムパフォーマンスの上位層での新たな検証要件です。

信号対雑音ベースの感度測定はビット・エラー・レート(BER)、そしてブロック・エラー・レート(BLER)へと進化し、今は雑音に加え干渉も考慮しなければなりません。変調精度は変調度エラーから、エラーベクトル振幅(EVM)になりました。ボイスコード、データスループット、バッテリードレイン、およびハンドオーバーのテストも加わりました。今はスケジューラの効率や「サービスの品質」(QoS)まで測定しています。5Gはセキュリティ、信頼性、レイテンシー、そしてシステムの消費電力の要件に関するシステムレベルの問題を提起するでしょう。業界ならびに社会からの高まる需要によって、音声やデータパフォーマンスに関連する物理学からシステムパフォーマンスへ進化するために、シミュレーション、デザイン、測定および検証が必要となりました。

社会や政府は、公共の安全、情報セキュリティ、および国益に特別な関心をもって5Gに細心の注意を払っています。これは、時間の精度やジッタなどの新しい物理的属性だけでなく、サービスレベル契約(SLA)や体感品質(QoE)を含むシステム全体の属性のデザインと検証要件を意味します。6Gでは、システムレベルパフォーマンスのポリシー主導の要件を予測することもできます。分かりやすい例として、6Gネットワークスライスの政府の使用があります。分かりにくい例ですが、6Gが自動運転やヘルスケアにとって不可欠な要素であることが挙げられます。これらのいずれかが国民が政府に期待する厳格な安全性、セキュリティ、信頼性の要件を推進しています。

こうした変化の中には、顧客の5Gテクノロジーを手伝う中で見えてきたものもあります。もちろん、すべての顧客が無線あるいは、光ファイバーシステムやデータセンターの速度を測定したいと思っています。しかし、SLAで顧客に提供しているものを検証するにはどうしたら良いかというような質問も受けます。音声の質の問題は何が原因でしょうか。ネットワークおよび特定のモバイルデバイスでモバイルゲームが正しく実行されるようにするには、どうすればよいでしょうか。どのレベルのセキュリティを保証できるのでしょうか。

6Gは主に5つの分野で新しいテクノロジーの需要を促進します。

  1. すべての帯域に次世代の無線と100GHz以上の追加帯域:スペクトラムやエネルギー効率を8GHz未満に改善する新しいテクノロジー、20~70GHzミリ波での世代別改善、そしてコミュニケーション、センシング、および画像化用Sub-THz(100~1000GHz)の追加を含みます。
  2. 統合型異種マルチ無線アクセステクノロジー(RAT)システム:非地上系ネットワークならびに従来の無線システム、パーソナル・エリア・ネットワーク、近距離無線通信(NFC)を備えた6G無線システムのシームレスでインテリジェントな使用。
  3. ネットワークのタイムエンジニアリング:レイテンシーをさらに削減し、予測およびプログラム可能なレイテンシーを加え、高精度時刻のアプリケーションに対応
  4. AIベースのネットワーキング:人工知能(AI)を使ってリアルタイムネットワークの動作とパフォーマンスを最適化します。 また、インタフェースと広く普及したAIデータ、モデルおよび知識の共有
  5. 高度なセキュリティ:プライバシー、攻撃の防止、攻撃の検知、攻撃からの回復、ゼロトラスト環境での回復などセキュリティテクノロジーの広範な適用

これらの最初のものを除くすべては、物理的レベルからシステムレベルまで検証の必要があります。システムレベルのテストの中には、ポリシー要件で決定されるものもあるという予測は否定されることもあります。先述の通り、5Gはセキュリティと国益に関連しているため世界中の政府が激しい協議を行っています。地域政府および共同自治体はモバイルデバイスの使用、セルの配置、および電磁曝露に関する地方条例の策定を行っています。また、前世代よりも5Gのライフサイクルの早い段階で、防衛部門はニーズのために5Gの使用を検討しています。

ポリシーの影響についてまだ懸念をお持ちであれば、初期の無線の歴史を思い出してみてください。遭難の普遍的な信号であるS-O-S(モールス信号、…---…)が、常に標準だったわけではありません。この3つの記号は、その簡潔さと区別のしやすさで選ばれ、1906年にベルリンで行われた国際無線電信会議で標準化されました。1912年のタイタニック号の大惨事により、一般的な災害無線チャネル(500KHz(λ=600m))だけでなく、すべての船上無線通信室に常に人員配置を規定する国際海事法が標準化されました。ですので、すでに(1)メッセージのタイプ、(2)無線チャネル、(3)行動規範を定めている初期のポリシーが存在します。それ以降多くの追加の例があり、無線システムは社会の基礎的部分であるため、さらに増えることが予想できます。