中国国家航天局(CNSA)は2020年12月2日(日本時間)、月探査機「嫦娥五号」の着陸機が、月面への着陸に成功したと発表した。月の石や砂の採取にも成功したという。
このあと4日には月から離陸。軌道上で待機している別の機体とドッキングし、地球への帰路につく。
嫦娥五号の着陸成功
嫦娥五号は、月の石や砂などのサンプルを地球に持ち帰ることを目指した探査機で、11月24日、中国・海南島にある文昌航天発射場から打ち上げられた。
嫦娥五号は打ち上げ時の質量が8.2tもある大型の機体で、また地球と月を往復する間の軌道変更などを担う「周回機」、採取したサンプルを大気圏再突入時の熱から守り、地上に届ける「回収カプセル」、月面に着陸し月の石を採取する「着陸機」、そして月の石を載せて月から離陸するための「上昇機」の4つのモジュールから構成された、複雑な機体でもある。
打ち上げ後、直接月へ向かう軌道に投入された嫦娥五号は、その後2回の軌道修正を行い、月へ接近。そして28日21時58分、月を回る軌道に入った。29日21時23分には軌道変更を行い、楕円軌道から高度約200kmの円軌道に投入。そして30日5時40分、探査機のうち月面に着陸する着陸機と上昇機を分離した。
着陸機と上昇機は月面着陸に向けて徐々に降下し、自律的に着陸に適した場所を探し出したのち、12月2日0時11分、無事着陸に成功した。
着陸地点は、月の西経51.8度、北緯43.1度の、「嵐の大洋」にある「リュムケル(リュンカー)山」の北側だった。
着陸機はその後、太陽電池パドルや通信用アンテナを展開し、各機器の状態の確認なども実施。そして装備した可視光・赤外線カメラや、月の鉱物を分析するための分光計、地下の構造を検出するためのレーダーを使い、着陸場所の地質の分析が行われた。
そして2日5時53分からは、装備しているドリルとロボット・アームを使い、月のサンプルを採取する活動も始まった。ドリルは地下約2mからのサンプルを採取することができ、またロボット・アームはカメラや分光計からのデータをもとに、場所を選んで採取することができる。同日23時ちょうどには採集活動が完了し、採取された地中と地表からのサンプルは上昇機へ収容された。
採取量は明らかにされていないが、設計上、最大2kgのサンプルを採取することができるとされる。
嫦娥五号と嫦娥計画の今後
嫦娥五号はこのあと、12月4日には上昇機のみが離陸。6日ごろには軌道上で待機している周回機と回収カプセルとドッキングする。
その後、サンプルを回収カプセルに移送したのち、上昇機を分離。周回機と回収カプセルは月周回軌道を離れ、地球への帰路につく。
そして地球に近づいたところで周回機から回収カプセルを分離。カプセルは大気圏上層部で水切りの石のように跳ね、空力加熱を抑えつつ少しずつ速度を落としたのち、内モンゴル自治区の四子王旗にある草原地帯に着陸する。帰還は12月16日ごろに予定されている。
中国の月探査計画「嫦娥」は2003年から始まり、月のまわりを回る第1期、月面に着陸する第2期、そして月の石を回収する第3期と、段階を踏んで進められている。
まず2007年に初の月探査機「嫦娥一号」の打ち上げに成功し、月を周回して探査を実施。2010年には改良型の「嫦娥二号」が打ち上げられ、世界で最も詳細な月面全体の画像を取得するなどの成果をあげた。
そして2013年には、月への着陸を目指した「嫦娥三号」を打ち上げ、月面着陸に成功。探査車「玉兎号」も月面を走り回った。さらに2018年には、嫦娥三号を改良した「嫦娥四号」が打ち上げられ、史上初となる月の裏側への着陸に成功している。
今回の嫦娥五号は、これらに続く、そして嫦娥計画の第3期の始まりとなるミッションである。
嫦娥五号が着陸に成功したことで、中国は現在月面において、嫦娥三号、嫦娥四号とともに、3つのミッションを進めることになる。また、嫦娥四号と通信するための通信衛星「鵲橋」も含めると4つになる。
また、嫦娥五号のミッションが成功すれば、中国は米国、ソ連(ロシア)に続いて、月の石を持ち帰る3番目の国となる。そして人類は、ソ連が1976年に実施した「ルナー24」ミッション以来、44年ぶりに新しい月のサンプルを手にすることになる。
くわえて、これまでに回収された月のサンプルは、いまから31億年から44億年前につくられた古いものである一方、嫦娥五号が着陸したリュムケル山周辺は、いまから12~13億年前に起きた大規模な火山活動の結果できたと考えられており、ミッションが成功すれば史上最も若い時代の月のサンプルが手に入ることになる。これにより、この比較的最近の時代に、月で何が起こっていたのかを理解するとともに、月の歴史を知り、さらに地球や太陽系の他の天体がどのように進化してきたかを理解するのにも役立つと期待されている。
さらに中国は今後、2023年に月の南極に着陸して探査する「嫦娥七号」の打ち上げを計画しているほか、2024年には嫦娥五号の同型機である「嫦娥六号」を打ち上げ、月の南極からのサンプル・リターンを行う計画もあるとされる。さらに2028年には、嫦娥七号の同型機となる「嫦娥八号」を打ち上げ、同じく月の南極に着陸し、探査を行うとされる。
月の南極には水(氷)があるといわれており、そのメカニズムや埋蔵量について理解することは科学的にも意義があると同時に、将来の有人月探査の役にも立つことが見込まれる。
中国はまた、嫦娥計画とは別に、月への飛行に使える新型の有人宇宙船の開発も進めており、さらにまもなく大型の宇宙ステーション「天宮」の建造と、中国人宇宙飛行士の長期滞在も始まることから、将来的には有人月探査を行うことも狙っていると考えられている。
参考文献
・http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758844/n6760243/n6760244/c6810685/content.html
・http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758844/n6760243/n6760244/c6810689/content.html
・http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758844/n6760243/n6760244/c6810711/content.html