SKグループの中核企業で、メモリメーカーSK Hynixを傘下に抱える携帯電話・通信キャリアSK Telecomは、独自開発したデータセンター向けAI半導体チップ「SAPEON X220」を発表した。 同社は、これによりAI半導体市場に本格的に進出する計画だという。

同製品は、既存のAI推論用GPU比でディープラーニングの演算速度が1.5倍速く、データセンターに適用するとデータ処理容量が1.5倍増加するとしている。同時に価格はGPUの半分程度で、電力消費量も20%削減できるという。AI半導体の性能を向上させるためには演算コアの設計能力と高性能メモリの連携が必要なため、同社はSK Hynixとの協力を通じてシナジー効果を生み出す戦略のようである。

なお、「SAPEON」は人類を意味する「SAPiens(サピエンス)」と永劫の時間を意味する「aEON(イオン)」の合成語であると同社は説明している。

AI半導体は人工知能サービスの実現に必要な大規模な演算を高速・低電力で実行するためのもので、AIの重要性が増す中、その必要性が高まってきており、その市場規模は2024年に5兆円に迫るとみられ、NVIDIAをはじめとして多くの企業が参入を果たしている。

  • SAPEON X220

    SAPEON X220のパッケージ。60Wの消費電力で毎秒6700フレームのイメージを処理できるという (出所:SK Telecom Webサイト)

国家戦略に沿って半導体強化を図るSK Telecom

韓国政府が掲げた非メモリ半導体の強化を目指す「総合半導体強国」という国策では、AI半導体の開発も奨励されており、AIエンジニアの3000人育成といった活用側の体制整備も進められようとしている。

SK Telecomの取り組みもその一環であるが、同社はAI半導体技術で競争力を確保するための同国の取り組みにおける主導的な役割を果たす位置にいる。同社が主導する産学研究コンソーシアムは現在、クラウドデータセンターなどの高性能サーバーに利用できる次世代AIチップとインタフェースを開発するために、韓国科学ICT省によって割り当てられた大規模プロジェクトを実施している。プロジェクトのメンバーには、SK Hynix、ソウル国立大学、韓国電子技術研究所が含まれており、これらと緊密に連携して研究開発が進められている。

SKグループ挙げてAIチップの積極的活用を計画

SK Telecomは、2021年からSAPEON X220を自社のAIサービス「NUGU」に適用して、音声認識機能を向上させる予定だという。さらにSK Telecomの関連会社でも利用することが計画されているとのことで、例えば韓ADT Capsでは、「TView」というAIベースのビデオ監視サービスのパフォーマンスを向上させることを予定しているほか、SK Telecomとシンクレアブロードキャストグループの合弁会社であるCast.eraの次世代メディアプラットフォームのクラウドサーバーにも適用される予定だという。

このほか、同チップは、韓国政府が提唱した韓国ニューディールイニシアチブの下で推進されているAIベースのプロジェクトにも提供される予定だという。

なお、SK Telecomは、AI半導体チップと5Gを組み合わせることで相乗効果を生み出すことを目指す方針で、よりエンドユーザーの近く高性能AIを配置することで、低遅延かつ高品質のAIサービスを提供できるようにすることを目指しているという。