消費者、産業界、政府はすべて、再生可能エネルギーの利用を拡大するための措置を講じています。これにより、発電・配電システムは、主として中央集中型のホィールアンドスポークアーキテクチャから、需要と供給を円滑にするために、スマートグリッド相互接続で支えられる局所的な発電と消費のメッシュベースアプローチへと再形成されつつあります。

国際エネルギー機関(IEA)の2019年10月版燃料報告書によると、再生可能電力容量は2024年までに50%増加すると見込まれています。これは世界の電力容量が、米国の現在の設備容量に相当する1200GW増加することになります。同報告書は、増加分の60%は太陽光発電(PV)設備によるものと予測しています。

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    図1. 技術別の再生可能エネルギー容量の成長率、2019年~2024年

また、住宅や商業ビル、産業施設が自家発電を開始する中で、分散型PV発電システムの重要性を強調しています。同報告書では、2024年までに分散型太陽光発電の総容量が2倍以上になり、500GWを超えると予測しています。これは、太陽光発電全体の成長のほぼ半分を分散型太陽光発電が占めることを意味します。

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    図2. セグメント別分散型太陽光発電容量の成長率、2007年~2024年

太陽光発電の優位性

再生可能エネルギー容量が増加する中で、なぜ太陽光発電がこれほどまでに主役を演じているのでしょうか? その明白な理由の1つは、太陽光は私達全員に降り注ぐため、そのエネルギーをきわめて幅広く利用できるからです。これは発電を消費に近づけることで配電ロスを減らしたり、電力ラインのない場所に電気を運んだりするのに特に有用です。

他の明白な理由は太陽エネルギーが無尽蔵に存在することです。地球が太陽からどれだけのエネルギーを享受しているかを算出する計算には、多くの微妙な差違が存在しますが、1つの目安としては平均して、晴れた日の海面では1平方メートルあたり1kW、昼夜のサイクル、入射角、季節性などを考慮すると1日あたり6kWhとされています。

太陽電池は、光電効果を利用して、光子の流れとして地球に運ばれてきた入射エネルギーを電気エネルギーに変換します。光子はドープされたシリコンなどの半導体材料に吸収され、そのエネルギーによって分子軌道や原子軌道から電子が励起されます。次いでこれらの電子は、余分なエネルギーを熱として放散して軌道に戻るか、電極に移動して電極上に存在するために生じる電位差を無くす方向に流れる電流の一部になることができます。

他のエネルギー変換プロセスと同様、太陽電池に入力されたすべてのエネルギーが望ましい電気的形態で出力されるわけではありません。実際のところ、単結晶シリコン太陽電池の効率は何年も前から20~25%程度で推移しています。しかし、太陽光発電の可能性はきわめて大きいため、研究チームは何十年にもわたって、ますます複雑化する構造や材料を使用してセルの変換効率を高めるために、研究を行ってきました(NRELの下図を参照)。

図に示すような高効率は通常、複数の異なる材料を使用したり、より複雑でコストのかかる製造技術を使用して達成されます。

多くの太陽光発電設備は、様々な形態の結晶シリコンやシリコン、テルル化カドミウム、セレン化銅インジウムガリウムなどの薄膜を使用しており、変換効率は20~30%の範囲にあります。セルは、太陽光発電システムを構築する際に使用する基本ユニットとして設計されたモジュールに組み込まれています。

効率の課題

太陽光発電は、地表の各1平方メートルに入射する太陽エネルギーのキロワット分を、200W~300Wの電気エネルギーに変換します。これはもちろん理想的な条件でのことです。変換効率は、セルの表面に付着した雨、雪、埃や半導体材料の経年変化、植生の成長や新しい建物の建設による日陰の増加などの環境変化によって低下する可能性があります。

したがって、現実として太陽エネルギーは無料ではありますが、太陽エネルギーを利用して有用な電気エネルギーを作り出すには、太陽エネルギーの捕捉、貯蔵、電気エネルギーへの変換の各段階を注意深く最適化する必要があります。効率向上のための有効な手段の1つは、太陽電池アレイ(または電力貯蔵蓄電池)の直流出力を交流電流に変換して直接消費するか、または電力網を介して送電するインバータの設計です。

インバータは、DC入力電流の極性を切り替えて近似的なAC出力を生成します。スイッチング周波数が高いほど変換効率も高くなります。単純なスイッチングでは矩形波出力が生成され、抵抗負荷の駆動には問題ありませんが、高調波が含まれるため、純粋な正弦波ACで駆動するように設計されたより複雑な電気回路に損傷を与える可能性があります。そのため、インバータの設計は、効率、動作電圧、電力容量を高くするためにスイッチング周波数を上げること、そして矩形波を円滑にするのに使用する補助部品のコストを抑えること、この両者の間でバランスを取る作業になります。

SiCの優位性

シリコンカーバイド(SiC)には、太陽エネルギーの管理において、バンドギャップに起因する(すなわち電気を流すのために電子に必要なエネルギー量がシリコンの3倍近くある)、シリコンを上回る複数の材料的な優位性があります。これはSiCデバイスはブレークダウンするまでにシリコンの約10倍の電界に耐えることができ、またシリコンで作られた同様の構造よりもはるかに高い電圧で効率的に動作可能なことを意味します。

さらに、SiCデバイスはシリコンよりもオン抵抗、ゲート電荷、逆回復電荷の各特性が低く、熱伝導率が高くなります。これらの特性は、SiCデバイスはシリコンの同等品よりも高い電圧、周波数、電流でスイッチングでき、同時に熱の蓄積をより効果的に管理できることを意味します。

SiCはシリコンでは非実用的なデバイスを作製するのに使用されます。MOSFETはユニポーラデバイス、すなわち少数キャリアを使用しないデバイスのため、スイッチングアプリケーションに適しています。多数キャリアと少数キャリアの両方を使用するシリコンバイポーラデバイスは、シリコンMOSFETよりも高い電圧で動作できますが、スイッチング時に電子と正孔が再結合するのを待つ必要があり、また再結合エネルギーを放散させる必要があるため、スイッチングは低速です。

シリコンMOSFETは、約300Vまでのスイッチングアプリケーションに幅広く使用されていますが、これ以上の電圧になるとデバイスのオン抵抗が増加するため、設計者はより低速のバイポーラデバイスを使用せざるを得ません。SiCの高耐圧特性は、高速スイッチング速度で動作する低電圧シリコンデバイスの利点を維持しながら、シリコンで達成可能な電圧よりもはるかに高電圧のMOSFETを構築するのに使用できることを示しています。また、スイッチング性能も比較的温度に依存しないため、システムが加熱しても安定した性能を発揮できます。

電力変換効率はスイッチング周波数に直接関係するため、SiCはシリコンよりも高い電圧を扱え、高い変換効率を実現するのに必要な高速スイッチングが可能であるという両方の特長を兼ね備えています。

また、SiCの熱伝導率はシリコンの3倍なので、高温での動作が可能です。シリコンは175℃前後で半導体としての機能を停止し、200℃前後で導体となるのに対し、SiCは1000℃前後まで半導体としての機能を維持します。SiCの熱特性を利用するには2つの方法があります。1つは同等のシリコンシステムよりも必要な冷却が少ない電力変換器の製作に使用することです。もう1つは、SiCの高温での安定動作を利用して、自動車や携帯電話基地局などのスペースが限られた場所で、非常に高密度の電力変換システムを構築することです。

これらの利点を太陽光変換の効率を高める昇圧回路に応用できます。この回路は、入射光のレベルによって変化する太陽電池アレイの出力インピーダンスを、インバータが最も効率的な変換を行うのに必要とする入力インピーダンスと整合させるように設計されています。

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    図4: ソーラー昇圧回路の高効率化にSiCデバイスを導入(オン・セミコンダクター)

シリコンダイオードとMOSFETを使用した、最も低コストのアプローチを左端の図に示します。中央の図に示す最初の最適化は、シリコンダイオードをSiCバージョンに置き換えることであり、それによって回路の電力密度と変換効率を高め、システムコストを削減します。右端の図に示すように、シリコンMOSFETをSiCの同等品に置き換えることによって、スイッチング周波数の選択幅が広がり、回路の変換効率と電力密度がさらに向上します。

オン・セミコンダクターのSiCショットキーダイオードは、一般的なTO220およびTO247パッケージに封止され、最大定格1200V、20Aです。また、モジュールビルダー向けに最大定格1200V、50Aのベアダイも提供しています。

さらに、お馴染みのD2PAKやTO247タイプの1200V SiC MOSFETも幅広く 取り揃えており、標準的なRDS On値は最小20mΩとなっています。

オン・セミコンダクターは、このパワー集積モジュールなどのシリコンIGBTおよびSiCダイオードを組み合わせたハイブリッドモジュールも販売しています。このモジュールには、2個の40A/1200V IGBT、2個の15A/1200V SiCダイオード、および2個のIGBT用の25A/1600V反並列ダイオードで構成されるデュアルブーストステージが搭載されています。さらに2個の25A/1600Vバイパス整流器が突入電流を制限し、モジュールはサーミスタによっても保護されます。

オン・セミコンダクターは、太陽光発電設備でSiCを利用したいお客様のために、ソーラーインバータ用2チャンネルまたは3チャンネル全SiC昇圧モジュールも開発しています。

SiCパワーデバイスは、高電圧と高電流を高速でスイッチングする能力、低損失、優れた熱性能など、シリコン代替品よりも多くの利点を提供します。現在のところ、同一条件の下では(シリコン代替品が入手可能な場合)、シリコン同等品よりもコスト高になる可能性はありますが、システム内での性能向上、例えば冷却構造などにより、多くのコスト削減効果が得られるので、十分コストに見合うはずです。さらに、効率に関して次のような議論もあります。普及が進むSiCが、IEAが2024年までに設置されると予測しているすべての分散型太陽光発電システムの電力変換効率をわずか2%向上させただけで、10GWもの発電容量が追加されることになるのです。

著者プロフィール

Brandon Becker
ON Semiconductor
Product Line Manager – Wide Bandgap