今、コロナ禍により、多くの業界が打撃を受けている。そうした業界の1つがアパレル業界だ。ビジネスウェアを販売する青山商事は今年11月、希望退職の募集を発表した。そうした中、同社はどのようにして、ビジネスの立て直しを図るのだろうか。

コロナ禍で一気に縮小したビジネスウェア業界

新型コロナウイルスの感染はとどまることを知らないが、春の大規模な外出自粛から続く、行楽自粛や会食自粛、各種行事の中止といった流れで、人々は新しく服を買うという行動から遠ざかってしまった。中でも、被害が深刻なのがテレワークの急速な普及の影響を受けているビジネスウェア業界だ。

「多くの企業がテレワークを導入したことで、人と人が直接会う機会が減りました。スーツを着用する機会そのものが減ってしまった影響は大きかったと思います。また、春には卒業式や入学式、入社式、研修といった行事がなくなりましたし、密になることを避けて冠婚葬祭も縮小されるようになりました。こうしたオケージョン利用が大幅減少したことで、スーツ業界全体の市場が前年比50~60%程度に落ちていると感じます」と語るのは、青山商事 代表取締役社長の青山理社長氏だ。

  • 青山商事 代表取締役社長 青山理氏

青山商事は、「洋服の青山」や「THE SUIT COMPANY」などを展開するビジネスウェア主体とするアパレル企業だ。1964年の創業以来、働く人のための衣類を扱う企業として成長してきた。しかし近年は、オフィスウェアのカジュアル化が進んでいることからスーツ市場の縮小が続いており、今後もワークスタイルの多様化からビジネスウェア業界に厳しい傾向が続くことは予想できる状態にあったという。

「個人的には、毎年1%ずつ人口が減って3、4%の人が働き方のスタイルを変えて行くことで、10年後には市場規模が50~60%に縮小していくと想定していました。しかし、この動きが一気に進んでしまったという印象です。働き方の選択肢が増えたことは社会にとってよいことだと思いますが、コロナ禍で集まらなくても仕事ができることがわかりました。もう元には戻らないでしょうから、スーツ業界は中長期的に見ても苦しくなるでしょう」と、青山氏はアフターコロナ時代にも楽観的な希望は持てないと指摘する。

オーダー比率向上でユーザーに寄り添う

小売店の基本的なコロナ禍対策であるECへの注力は、当然、青山商事でも行った。9月末時点では伸長率150%と、一見大きな効果が出ているようだ。

「残念ながら、洋服の青山のEC比率は2%とまだまだ小さく、全体に与える影響は大きくありません。また、ビジネスウェア、特にスーツをECで買うという習慣はすぐには根付いて行かないでしょう」と青山氏は語る。

スーツを仕立てた経験のある人にはわかることだが、スーツは大まかなサイズの既製品を選べばよいというものではない。ジャストサイズできっちりと着ることが求められるビジネスウェアに試着は欠かせないし、特にパンツスーツは丈直しが必要になるものだ。ダークトーンを基調する中での微妙な色合いの違いも、現物を見て選択したいと思う人が多いだろう。

つまり、スーツは、ECとは比較的相性のよくないタイプの商材なのだ。そのため、青山商事ではECについて短期的に結果を求めるのではなく、中長期的な戦略として重視していく構えだ。

「洋服の青山では、5~10年後にオーダー比率50%を目指しています。そうなれば、お客様一人ひとりのサイズや好み、購入タイミングといったデータが得られて提案もしやすくなりますし、お直しにも対応可能になるでしょう。将来は今よりもビジネスウェアがECで購入しやすい時代になっていくはずです」と青山氏。

こうして、青山商事ではコロナ禍を契機にECへ注力したものの、現状解決に至る大きな一手にはなりきれない物となった。では、直近の課題にどう取り組んで行くのだろうか。

スーツの「かっこよさ」を再発信し、カジュアル領域にも切り込む

青山商事では10月に「ビジネスウェアガイドマップ」を発表した。メンズとレディースに分け、最も得意とするスーツスタイルからカジュアルスタイルまでを各6段階にマッピング。フォーマル度の切り分けと、それぞれに合った着こなしを提案した。

  • 「ビジネスウェアガイドマップ」一部抜粋

「今後のビジネスウェアの需要は企業や働き方によって変わってくるので、それぞれに対応した商品の提案が必要だと思っています。現在はガイドマップで提案したカテゴリーに対しニーズやトレンドを取り入れた商品を開発し、ビジネスウェア全般の提案を行っています。まずは当社の強みを発揮できる、ガイドマップでいえば★3つ以上の領域で結果を出した上で、★1や2の領域でも勝負して行きたいですね」と青山氏は語る。

また、スーツというメイン商材に対する意識の変革にもチャレンジしたいという。現在、特に若者にとってスーツは「着なくてはいけない物」だ。きちんとした行事や商談でスーツを選ぶのも、そうでなくてはならないという意識があるからだろう。しかしそのままでは、需要は先細りしてしまう。

「スーツは元々、自分をかっこよく見せるという目的を持って着るものでした。自分をかっこよく見せたいという欲求は誰でもあるもので、それを一番手軽に叶えてくれるアイテムがスーツなのだと世の中に再認識してもらうことも、業界1位企業の使命だと思っています」と青山氏。

具体的な手段として、機能性と品質を兼ね備えるだけでなく「着るだけでかっこよくなれる」というメッセージを打ち出したコミュニケーションを今年10月から開始。高品質で高機能でありながら、手頃な価格で購入できる「最強スーツ」を発売したほか、店舗演出やテレビCMも刷新している。

それ以前に、店舗営業自粛中にもマネキンを利用した企画でショーウィンドウをユーザーコミュニケーションの場とするなど話題性も高めてきた。SNSとの親和性を高め、「洋服の青山」が時代に合わせた変化をしっかりしていることを伝えることにも熱心に取り組んでいるという。