東芝、高輝度光科学研究センター(JASRI)、東北大学の3者は11月26日、大型放射光施設SPring-8の放射光を用いて、ハードディスクドライブ(HDD)用書き込みヘッドの磁化の挙動を100億分の1秒の精度で画像化することに成功したと共同で発表した。
同成果は、JASRIの小谷佳範主幹研究員、同・大沢仁志研究員、東北大学多元物質科学研究所の岡本聡教授、同・菊池伸明准教授、そして東芝の研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学協会の学術雑誌「Journal of Applied Physics」にオンライン掲載されたほか、12月14日より開催される第44回日本磁気学会学術講演会でも発表される予定だ。
米国の市場調査会社IDCによれば、2018年から2025年の7年間で世の中のデータ量が5倍以上になると予測されている。現在の主要なストレージデバイスであるHDDの2020年の年間総出荷容量は1ZBに達し、その売上高は200億ドルにのぼると見込まれている。
今後、HDDのさらなる容量の増加と、データ転送速度の向上を実現するためには、書き込みヘッドの動作を正確に把握して合理的な設計にする必要があるという。しかし、書き込みヘッドは100nm以下の微細な構造を持ち、1ns以内で高速な磁化反転が行われるため、実際にその動作を観察することはこれまで困難だった。
これまで動作の把握は、磁化挙動シミュレーションによる解析や、磁気記録媒体に書き込みを行った際の特性を用いた間接的な解析によって推測する手段しかなかった。ヘッドの動作を正確に把握できる新しい手法の開発が望まれていたのである。
そこで、共同研究チームはSPring-8の走査型X線磁気円二色性顕微鏡装置を用いたHDD書き込みヘッドの新規解析技術を開発。同技術では、SPring-8の蓄積リングから周期的に生成されるX線パルスに同期させて、その10分の1の周期で書き込みヘッドの磁化を反転させるタイミング制御を行い、時間分解測定を実現した。
これにより、集光したX線を書き込みヘッドの記録媒体対向面上で走査し、磁気円二色性を利用することで、磁化の時間変化の画像化に成功。時間分解能、空間分解能はそれぞれ50ps、100nmを達成し、書き込みヘッドの微細な構造、高速な動作の解析を可能とした。今後、X線の集光に用いる素子の改良などを重ねることで、さらに高い分解能を達成するポテンシャルもあるという。
同手法を用いて、書き込みヘッドの反転時の磁化変化の解析が行われ、主磁極部分の磁化反転が1ns以内に完了する様子がとらえられた。また、主磁極部分の磁化反転に伴ってシールド部分に生じる磁化の空間的パターンの観察にも成功したとする。
動作時の書き込みヘッドの磁化の挙動をこのような高い空間・時間分解能でとらえた研究はこれまでない。今回の手法を用いることで、書き込みヘッドの動作解析を高精度に行え、HDDのさらなる高性能化を可能とする次世代書き込みヘッド開発への貢献が期待できるとした。
また、東芝は次世代のHDD技術である「エネルギーアシスト磁気記録」の開発を行っており、今回開発された解析手法、ならびに同手法により得られた書き込みヘッドの動作に関する知見を、エネルギーアシスト磁気記録向け書き込みヘッドの開発に応用することを目指すとしている。