STマイクロエレクトロニクスは、11月16日~12月18日にわたってオンラインで開催されているイノベーションの社会実装を加速させるエッジテクノロジー総合展「ET & IoT Digital 2020」にて、携帯電話に搭載可能なほど安価なToF測距センサを用いたソーシャルディスタンスの実現手法の提案を行っている。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために、人と人の距離を一定以上確保するソーシャルディスタンスが社会的に求められるようになっている。しかし、行列に並んでいる人々の足元に線でも引いてある場合は別だが、普段の何気ない生活で必要とされる距離を実際に取れているかどうかを気軽に調べる方法はあまり存在していない。
安価なToFで距離を把握
今回、同社が提案しているのは、安価なToF測距センサ「VL53L1CX」を活用した2D LiDAR。同社のToF技術は「FlightSense」と呼ばれるもので、放射された光子が反射するまでの時間に基づいて距離を直接測定することで、対象物の表面特性に影響されない正確な測距を可能とするという特徴がある。この特性を利用することで、例えば扉の上部に設置しておくだけで、視野(照射)の位置を高速で切り替えることで、部屋の内側に入ったのか、それとも外部に出ていったのか、といった入退出を簡単に検知することができる。また、高さのレンジを設定しておくことで、椅子と人の見わけをするといったことも可能だという。ちなみに、この入退出ソリューションに関しては、サンプルソフトなどを同社Webサイトから入手することが可能だという。
さらに9つのToFセンサを組み合わせることで180°という広い視野角で周辺の状況を把握することも可能(1つのToFで20°ずつ検知)。こちらはデモ向けにサンプルソフトのみならず、9つのToFを搭載可能な筐体の3DデータなどがWebサイトから入手することが可能で、デモ基板なども含めても、1万円もあれば評価システムを構築できるとしている。
BLEで距離を把握
このほか、ET & IoT Digital 2020では紹介を行っていないが、海外では同社のパートナーがBluetooth Low Energy(BLE)SoCを活用したソーシャルディスタンスの実現に向けたソリューションの提供を進めているという。
同社のBLE SoC「BlueNRG-2」は、Arm Cortex-M0プロセッサと最大256KBのFlashメモリを搭載することで、最大32767台を対象としたBluetooth 5.0メッシュ通信に対応している。これを搭載したボタン電池サイズのコイン型開発ボード「BlueNRG-Tile」には加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサ、大気圧センサ、温湿度センサ、MEMSマイクロフォン、ToF測距センサ(FlightSense)などが搭載されており、BLEと加速度センサ、ジャイロセンサを活用することで、近くのBluetoothビーコンのRSSI(受信信号強度)をリアルタイムで測定し、単体で各ビーコンとの距離を測定し、設定範囲内にほかのビーコンの信号が入ってきた場合、その強度に応じた挙動を行うといったことが可能。
例えばフランスの受託設計開発企業であるInocessは、こうした特性を活用した「Nextent TEGO」と「Nextent TAG」という製品を提案している。基本的には、3m以上、別のTEGOやTAGが離れていれば、青色LEDが点灯しているが、これが誰かのTEGOやTAGとの距離が3m未満を切ると、振動とオレンジ色のLEDが点灯、そして2m未満になるとブザーと赤色LEDが点灯して警告してくれるといった仕組みとなっている。
また別のパートナー企業ではSigfoxと組み合わせることで、クラウド連携を可能とするソリューションを提案しているところもあるという。すでに日本でもこうした手軽に距離を把握できることに着目した企業が、水面下で活用に向けた模索を進めているとのことで、遠くないタイミングで日本でこうした技術を活用したソリューションが利用可能になるのではないかと思われる。
なお、同社では、ウィズ・コロナ時代に必要とされるセンサ技術、半導体技術を提供していくことで、安全なソーシャルディスタンスの確保に貢献していきたいとしている。