国立成育医療研究センター(NCCHD)は11月19日、環境省主導の「エコチル調査」により追跡調査中の全国約10万人の3歳児までの子どものデータを用いて、アレルギー疾患・症状の実態や推移、アレルギーマーチ(アレルギー疾患・症状の併存)を明らかにしたと発表した。
同成果は、NCCHDアレルギーセンターの大矢幸弘氏センター長(同センター総合アレルギー科診療部長兼任)、同アレルギーセンター 総合アレルギー科の山本貴和子医長(エコチル調査研究部 チームリーダー兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、世界アレルギー機構の公式英文国際雑誌「World Allergy Organization Journal」に掲載された。
「エコチル調査」は、環境省が2010年度から始めた、日本中で約10万組の子どもとその両親が参加し、リクルート(募集)期間3年+追跡調査期間13年+データ解析期間5年で、2032年まで実施される日本初の子どもを対象とした大規模な疫学調査プロジェクトだ。子どもが母親の胎内にいるときから13歳まで、定期的に健康状態を確認し、環境中の化学物質や生活習慣などが、子どもたちの成長・発達に与える影響を解明することを目的としている。なおエコチルとは、エコロジーとチルドレンを意味する造語である。
エコチル調査プロジェクトによる研究成果は、2018年からすでに論文の発表が複数行われている。11月17日にも約2万組の妊婦とその新生児のデータを用いた、妊婦の血中鉛濃度と新生児の体格(体重、身長、頭囲)との関連についての論文が発表されたばかり。この分析によれば、血中鉛濃度が高まるにつれて、SGA(在胎週数に見合う標準的出生体重に比して小さい)や低出生体重(在胎週数によらず、出生時体重が2500g未満)で生まれる子が、わずかに多かったことが判明している。
そして今回は、多胎出産や調査参加を途中で中止した人を除く9万2945名の子どもを対象に、母親の胎内にいるときから3歳まで、アレルギー疾患・症状の実態や推移、症状の併存などが調査された。現在、アレルギー疾患の増加が大きな問題となっているが、日本での3歳以下の子どものアレルギー疾患有病率の経時的推移や実態は、全国レベルでの大規模な調査は今回が初めてとなる。
保護者への自記式のアンケート調査のデータが用いられ、即時型食物アレルギー、消化管アレルギー、湿疹・アトピー性皮膚炎・ぜん息・鼻炎などの経時的変化、アレルギー症状の併存・アレルギーマーチについての疫学的な分析が行われた。
まず即時型食物アレルギーの結果について。同アレルギーは、原因となる食物を食べてすぐに症状が現れる食物アレルギーのことで、保護者の回答では、1歳時7.6%、2歳時6.7%、3歳時4.9%だった。最も多かったのが「鶏卵アレルギー」で、次いで「牛乳」、「小麦アレルギー」が上位となっている。
また、生後6か月までに鶏卵の早期摂取を開始したのは、6.2%だった。かつて、鶏卵アレルギーは、発症予防として「離乳期早期からの摂取を避ける」とされていた。しかし、近年は生後5~6か月ぐらいからの離乳食での早めの摂取が望ましいとされている。逆に、開始が遅くなると鶏卵アレルギーの発症頻度が上がるともいわれている。6.2%は、鶏卵の早期摂取を開始があまり浸透していないことが見て取れる。
続いて、食物アレルギーの一種である消化管アレルギーについて。1990年代末頃から急増しており、新生児期・乳児期での発症が多いが、そのほかの年齢でも見られるアレルギーだ。粉ミルクなどの原因となる食物を摂取して、短くて1~2時間後、長いと数日後という、しばらく間を置いてから嘔吐や血便、ひどい下痢などが起きる。通常のアレルギー検査では診断できないことが多いため、診断が難しいという。今回の調査では、1歳半までに消化管アレルギーは1.4%の子どもで認められたとした。原因食物は鶏卵、牛乳、大豆の順となっている。
次に湿疹、アトピー性皮膚炎、ぜん息、鼻炎などの経時的変化について。16.8%の子どもが1歳時に湿疹ありという保護者の回答だが、医師にアトピー性皮膚炎と診断されたのは4.0%という回答だった。これは、本当はアトピー性皮膚炎であるはずが、過小診断されているケースが多い可能性があるという。そしてぜん息については、ぜん鳴により週に1回以上の睡眠障害がある方は年齢により1.7~2.9%に認められたという。また2歳以上になると、約1/4以上の子どもに風邪でない鼻炎症状があったとした。
最後にアレルギー症状の併存、アレルギーマーチについて。論文では1~3歳の年齢ごとの異なる併存パターンが掲載されているが、今回の発表では3歳時のアレルギー症状の併存状況が掲載された。アレルギーは食物アレルギー、湿疹、ぜん息、鼻炎の4種類が扱われており、中には4種類とも症状が併存しているという回答もあった。
今回の調査で初めて、全国レベルでの大規模な3歳までの子どものアレルギー症状・疾患の実態や推移が明らかになった形だ。今後、アレルギー疾患を減らしていくために予防、早期発見、早期介入をしていく必要があるという。
また鶏卵アレルギーの発症頻度を抑えられるとする、5~6か月頃の離乳食での鶏卵摂取には、さらなる啓発や実態調査が必要であるとする。さらに、保護者の報告と医師の診断に乖離があったアトピー性皮膚炎に関しては、過小診断されている可能性があり、正しい診断基準に基づいて医師が診断することが必要であると考えているとした。
そしてアレルギー症状はさまざまなパターンで併存しており、複数のアレルギー疾患を持つ子どもたくさんいることがわかった。年齢ごとにパターンも異なることから、個人個人の症状を詳細かつ的確に把握し、適切に処置することが求められるとしている。