現在世界中で流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、初期のウイルスと比べて変異により感染力が強まっている-。今後の感染再拡大が一層心配になるこのような研究成果を東京大学医科学研究所と米ノースカロライナ大学の共同研究グループがハムスターの実験で明らかにした。論文は13日付の米科学誌サイエンス電子版に掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は当初、中国・武漢市で流行し、その後世界に広がった。感染に関係するウイルス表面の「スパイクタンパク質」が「D614G」というタイプに変異し、初期のウイルスを上回る勢いで感染拡大したことが既に分かっていた。しかし、この変異がウイルスの性質にどんな影響を与えているのかは未解明だった。
東京大医科学研究所感染・免疫部門の河岡義裕教授らと国立感染症研究所、米ノースカロライナ大学、米ウィスコンシン大学の共同研究グループは、ウイルスを人工合成する技術を使って元のタイプと変異後、両方のタイプのウイルスを作成した。そしてSARS-CoV-2に感染させたハムスターと感染していないハムスターをペアにし、互いに接触しないように5センチ離して飼育する実験を計画。元のウイルスを使う場合と変異したウイルスを使う場合、それぞれ8ペアについて実施した。
その結果、変異ウイルスに感染したハムスターとのペアでは、2日後に8ペア中5ペアで非感染ハムスターの鼻からウイルスが検出された。しかし、元のタイプのウイルスに感染させたハムスターとペアを組んだ非感染ハムスターからは検出されなかった。4日後には元のタイプ、変異タイプ両方のペア間で感染が起きていたが、変異タイプでは早く飛沫感染が起きたことなどが明らかになったという。
共同研究グループはこのほか、変異タイプのウイルスの方が元のタイプより細胞に入る能力が3~8倍高いことも試験管内の実験で確かめた。さらに症状を重くする病原性は両タイプで変わらないことも確認。元のタイプのウイルス感染によりできた中和抗体が、変異タイプのウイルスにも効果があることを示すデータも得られたという。
現在世界中で開発中のワクチンが変異型に効くかどうか懸念されているが、河岡教授らは変異タイプのウイルスに対しても、元のタイプ同様のワクチン効果が期待できるとの見方を示している。
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