新型コロナウイルスの影響で、テレワークを余儀なくされる中、リモートで対処しきれない業務が浮き彫りになった。そうした業務の1つが、紙の請求書の処理を含む経理業務だ。
プライム・ストラテジーでは、もともと経理業務に関わるメンバーが3人いたのだが、組織改革によって、現在は管理部 経理課の城生野千恵氏が1人で経理業務を担っている。また、同社では緊急事態宣言が解除された後も、在宅勤務を原則としている。そうした中、城生野氏がどのようにして経理業務を遂行しているのか、話を聞いた。
新型コロナウイルス登場前からクラウドに移行
新型コロナウイルスの登場により、経理業務の電子化が注目を集めているが、プライム・ストラテジーでは新型コロナウイルスの感染が拡大する前から、リモートワークでも経理業務が行えるよう、会計システムと受発注システムをクラウドサービスで稼働させていた。
実のところ、今期、ちょうどfreeeの会計クラウドサービスにリプレースしたところだった。その理由を聞いたところ、上場に向けて、法規制に対応できるサービスが必要だったからだという。したがって、「新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務をしなければならなくなっても慌てることはありませんでした」と、城生野氏は語る。
城生野氏は、freeeのサービスの長所として、帳票を電子データとして添付できる点を挙げる。これにより、会計データだけで処理が行えるようになり、作業時間が短縮されたそうだ。以前使っていたサービスにはこの機能がなかったため、売掛金や債権をExcelで管理していた。
また、freeeは取引内容の転記作業や仕訳を自動化する機能を備えているが、プライム・ストラテジーでもこうした自動化の機能を活用しており、城生野氏は「freeeによって自動化が進みました」と語る。
クラウドサービスの長所としてよく言われていることだが、バージョンアップをユーザーが行わなくて済む点も、城生野氏にとっては有益だったそうだ。
クラウドの利用で監査にかかる手間を低減
会計システムのクラウド化は監査にも大きなメリットをもたらした。従来、監査は会計士が来社して行うものだったが、リモートによる往査が可能になったのだ。会計データの仕分けに電子データを添付することで、取引状況を明確にできる。
対面での往査においては、帳票を出すのに時間がかかっていたが、クラウドサービスの導入により、会計データを見るだけでよくなったという。また、借入金に関しても稟議の内容の確認を受ける必要があるが、会計クラウドサービスであれば、データを簡単に用意することができるそうだ。
プライム・ストラテジーでは今年4月より、原則、在宅勤務としており、年内に現在のメインオフィスを引き払う予定としている。つまり、在宅勤務が標準の働き方になっており、城生野氏も基本的に在宅で仕事をしている。
クラウドをベースとした経理システムが構築されていなかったら、コロナ禍において、城生野氏は在宅勤務で監査を乗り切ることはできなかっただろう。緊急事態宣言下でも、監査のために出社を余儀なくされた経理担当者の方はいたのではないだろうか。
在宅勤務の課題の1つに、コミュニケーションがある。人と人が顔を合わせて働く環境に比べると、どうしてもコミュニケーションが滞りがちだ。そうした状況を回避するため、プライム・ストラテジーでは、Microsoft Teamsに部ごとのサイトを構築し、出社したらそこに集まることにし、勤務中はTeamsに滞在するようにしている。
これにより、「用事がある時は、気軽に話しかけることができます」と城生野氏は話す。仮想空間に集まって働くことで、お互いの姿が見えなくても、一緒に働いているという雰囲気を醸成できるようだ。
今後の課題は電子帳簿保存法への対応
リモートワークで監査もこなすプライム・ストラテジーだが、書類への押印を電子署名によって省く、いわゆる「脱ハンコ」は今後の課題だという。先般、河野太郎行革担当大臣が国の省庁に書類への押印の廃止を求める発言をしたことで、行政手続きにおいて押印廃止の動きが広がっている。これに伴い、民間企業でも脱ハンコのためのシステムの導入が進むのではないだろうか。
今年10月には電子帳簿保存法が改正されて、電子データの保存要件が緩和された。これにより、電子的に受領した請求書などに発行者のタイムスタンプがあれば、受領側ではタイムスタンプが不要となった。また、受領側が訂正や削除などの改変ができないシステムやサービスを利用して、電磁的記録の授受・保存を行う方法も認められたことで、クラウドサービスも利用可能になった。
請求書などのデータが適正な形で保存されていれば、紙の領収書や請求書等をスキャンする作業が不要となり、デジタルデータの受領によって処理・保存が済むことから、経理業務の負担が削減されることになる。プライム・ストラテジーでは、この電子帳簿保存法への対応も課題としているという。
新型コロナウイルスの感染は収まることなく、第3波を迎えようとしている。今後、事業継続、従業員の健康維持など、さまざまな観点から、リモートワークで対応可能な業務を整備しておくことは必要不可欠なのではないだろうか。