サイボウズは11月11日~13日の3日間「Cybozu Days 2020」を開催、その際、日清食品ホールディングス(日清食品) 情報企画部次長 成田敏博氏が最終日の13日に登壇し、「日清食品グループのIT部門が目指す姿」と題し、同社におけるデジタル化推進に関する取り組みについての説明を行った。
DX推進を全社に浸透させる
日清食品グループが掲げている目標の中で、今年最も注力したのは「生産性向上200%」だという。「今後は、日系の食品製造業であっても、これまでの働き方を見直し、さらなるデジタル活用を推進し、これまでとは全く違う次元の労働生産性の向上を果たしていかないと、生き残っていけないとトップマネジメント自らが危機感を抱いている」と、成田氏は語った。
同社では、全社的にデジタル化の取り組みを加速させるため、2019年1月に社内に対してスローガンを開示した。具体的には、2025年までに「脱・紙文化(2019年)」「エブリデイテレワーク(2020年)」「ルーチンワーク50%減(2023年)」「完全無人ラインの成立(2025年)」と、この4つの実現を目指すものだ。スローガンを浸透させるため、社内報や社内ポスターを活用したという。
また同社グループは、経済産業省から2020年8月に、DXに取り組んでいる先進企業の1社として「DX銘柄2020」に選定されている。評価されたポイントとしては、安全性と生産性を追求して徹底的な自動化を実現させた「次世代型スマートファクトリー」、8割を超えるシステムの見直し・スリム化を実現させた「レガシーシステム終了プロジェクト」などがあるが、「一番評価されたポイントはほかにある」という。
「現場だけでなく、トップマネジメントがデジタルトランスフォーメーション(DX)に対して非常に強くコミットし、社内全体をリードしているかどうかが重要だ。われわれはこの点が一番高く評価された」と、成田氏は断言した。
コロナ禍における日清食品の働き方
同社では、2020年2月27日より国内グループ約3000名の社員に対して、基本在宅勤務を命じている。コロナ以前から進められてきた、クラウドシステムの拡充や、標準機としてSurfaceの配布、Microsoft Teams活用などのIT施策が効果を発揮し、比較的スムーズに在宅勤務に移行できたとしている。
しかし、Microsoft Teamsの在宅勤務での使い方に戸惑う社員も一定数いて、Web会議が滞ってしまうといった課題もあったそうだ。そこで、同社のIT部門が、各部門にTeamsの習熟度をヒアリングして部門ごとにカスタマイズされた研修を行うなど、スキルの底上げに努めた。
また、在宅勤務になったことにより、「VPNがつながらない」「VPNのアカウント数が足りない」といった問題に対応するため、プライベートアクセスを活用するなど、脱VPNの取り組みも加速させている。
そして、現在同社が最も力を入れて取り組んでいるのは、ペーパーレス化の推進だ。同社では、2019年中に「脱・紙文化」の実現を目指していたが、社内・社外の各種文書において電子化が進んでいない現状があるという。
そこで同社は、社内・社外において紙媒体が介在する業務を対象にオンライン化の推進に力を入れている。具体的には、決裁書や申請書、業務連絡書といったほとんどの社内文書に対し、サイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」を活用し、電子化を急速に進めている。また、請求書や契約書などの社外文書に対しても、インフォマートやドキュサインなど、さまざまな社外のステークホルダーの協力の下、徐々に電子化を進めている最中とのことだ。
内製化を徹底したプロジェクト体制
同社では、ワークフロー業務のペーパーレス化を目指し、2020年4月よりサイボウズの「kintone」を導入しているが、その際に前提となった条件は「”内製化”に適したローコード、ノーコードツール」だったという。
その背景には、年々深刻化するIT人材不足や外注したシステムが現場で使われなくなるといった問題を受け、自社のリソースで開発を行うことに加え、現場の意見を聞きながら柔軟にシステムを改善していけるツールを求めていたことがある。
同セミナーに登壇した、サイボウズ 執行役員営業本部長 兼 事業戦略室長 栗山圭太氏は「これからは、業務改善のプロジェクトを進めるにあたって、業務部門から情シス部門に対して要望を一方的に指示・依頼をするのでなく、業務部門がシステムを作成・修正し、相談を受けた情シス部門がアドバイスなどの支援を行うといった体制が理想だ」と語った。
日清食品の情シス部門では、内製化を「IT部門に限らず、エンドユーザーである業務部門自らが課題を見つけ、解決策を考え、実際に解決することを通じて、デジタル化に取り組む文化を醸成すること」と定義し、上記の理想形とするプロジェクト体制を構築しているという。
具体的には、情シス部門が業務部門からの相談を受け、プロジェクトの取りまとめや、IT戦略の立案・実行、業務部門の課題の洗い出しなどを行い、業務部門に対してアドバイスを行う。実際にアプリの作成や修正を行うのは業務部門だ。この体制をとったことで、以前より業務部門からの相談が増えただけでなく、業務部門からの提案も生じて、業務改善が効率的に図られたとしている。
成田氏は「プロジェクトを進める上で気を付けていることは、業務部門からの相談を受けて初めて打ち合わせをする時点で、サンプルとして、ある程度構築された動くシステムを提示すること」と説明した。これにより、業務部門は業務改善の可能性に驚き感心し、さらに議論が進むようになるとのことだ。
「その後は要件のすり合わせなどを通じて、アプリ開発のブラッシュアップを行っていく。その場で対応できない案件は後日改めて連絡し、業務部門自らの手で修正してもらう」(成田氏)
また、同社の情シス部門はSIerとの関わり方も独特だ。というのも、同社はkintoneのアプリ開発に関して、アールスリーインスティテュートに4月よりサポートを受けているが、定期的にWeb会議をしてアドバイスをもらっているのみで、システムの開発は一切してもらっていないという。
「Web会議のやり取りだけで、ドキュメントなどの成果物は一切作ってもらっていない。Web会議を通じて、手組をすることに対して手取り足取り教えてもらうだけ。これにより、情シスがノウハウを蓄積して生産性が高まるだけでなく、コストもかなり抑えられている」(成田氏)
さらに、SIerからの支援だけでなく、現在kintoneを活用している企業で、システム開発の経験がある情シス部門の社員も複業人材として雇入れて支援を受けているという。例えば、星野リゾートでkintone導入を主力として進めていた従業員一人に複業としてプロジェクトに参加してもらいアドバイスを受けている。
成田氏は、「kintone導入時初期に感じた課題点、その課題を解決に導いたプロセス、成功例・失敗例といったことを事前に知ることは重要だ。それによって、ガバナンスのルールを柔軟に変更していく」と、プロジェクトに外部の関係者を入れることについてのメリットを語った。
kintoneのような武器があれば、同様なプロジェクトの進め方は、どのような企業でも取り組めるはずだ、と、成田氏は話し、講演を締めくくった。