富士通は11月11日、東京都品川区と共同で婚姻届や出生届などの審査や受理手続きを行う戸籍事務の職員負荷軽減や正確性の向上、業務効率化を目指し、届出内容の審査や判断の根拠となる文献データを300冊以上の専門書籍から瞬時に検索できる電子書籍AI検索システムを同区の戸籍事務に適用し、有効性検証を行う実証実験を開始した。
戸籍事務は自治体業務において、一定の経験を要する複雑かつ高度な業務に位置付けられている一方で、自治体職員は幅広い業務を経験する必要があり、一定周期での人事異動が発生しているほか、近年は戸籍事務に精通した職員の退職や外部委託職員の増加などで、担当職員が戸籍事務の知識を効率よく習得することが困難になっている。
また、国際化による外国籍の届出増加や社会的価値観の変化に伴い、所蔵する膨大な書籍の中から過去の参考事例を目視で探し対応するような高い専門知識を要する届出が年々増加しており、経験豊富なベテラン職員を中心に戸籍事務の負荷が高まっているという。
同社は、戸籍事務を効率化しベテラン職員が注力すべき業務に集中できる環境を実現するため、戸籍関連の専門書籍を扱う日本加除出版が有する電子書籍の文献データをAIで瞬時に検索できるシステムを開発し、品川区において有効性を検証する実証実験を行う。
実施期間は11月11日から2021年3月31日まで、実証内容は住民から提出される婚姻届や出生届などの審査・判断の根拠となる文献データの検索時間短縮による業務効率化の効果を検証。これまで職員が都度、関連書籍の中から該当記事を手作業で探していた手間や時間の削減効果のみならず、削減した時間を他の住民サービス向上に充てることによる定性的効果も検証するほか、アジャイル開発方式を採用することで実証期間中に改善点を洗い出し、柔軟かつ素早くシステム改善や強化も実施する。
さらに、品川区、日本加除出版と共同で過去20年分300冊以上の書籍を電子書籍化し、網羅性を確認することに加え、同区が所蔵する書籍以外に必要な書籍があれば随時追加した上で電子書籍化を実施。
加えて、各種法令、先例を含めた電子書籍データをAIに学習させ、類義語や用語辞書を拡充し、自然文やキーワード、分類項目などの簡易入力検索で300冊以上の書籍から該当書籍や過去の判例抽出を実現できるように、AIの自然言語処理能力や同義語・類義語の判定精度を向上。戸籍事務の経験の浅い職員でもスムーズに過去の判例を検索できるなど、業務効率化への効果を検証する。
そのほか、システムをクラウド上で展開する際の導入手順や、新刊書籍のデータ化からシステムへデータを学習させるタイミングなど、導入後のアップデートにおける標準仕様の実現性や運用について、戸籍業務の有識者などを交えて整理。
今後、実証実験で電子書籍AI検索システムの有用性の検証を経て、構築したシステムや電子書籍データ、AI学習モデルをもとに商品化を検討し、全国の自治体への展開を目指す。